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殉愛


■公開:1956年

■制作:東宝

■監督:鈴木英夫

■助監:

■脚本:鈴木英夫、沢村勉

■撮影:

■音楽:

■美術:

■主演:鶴田浩二

■寸評:特攻隊員と深窓の令嬢の心中。


 職務遂行中に死ぬのが殉職、主君の後を追って死ぬのが殉死、愛に殉ずると書いて殉愛。純愛じゃないところがミソね。

 海軍航空隊の特攻隊員・鶴田浩二八千草薫と婚約していた。空襲がひどくなったので八千草一家は疎開し、鶴田は特攻基地へ戻る。

 どうしても逢いたい八千草が鶴田を訪ねた翌日、鶴田の友達・佐原健二と上官・加東大介が出撃し戦死する。両親(笠智衆夏川静枝)の反対を押し切って鶴田と結婚した八千草。鶴田は地方の基地に転属になる。どうしてももう一度だけ鶴田に逢いたくなり基地を訪ねた八千草は面会を断わられてしまう。手紙の返事も届かなくなり、八千草は鶴田と一緒に死のうと密かに毒薬を入手し、その時を待つのであった。

 一緒に死ぬったって心中するわけではない。鶴田の特攻出撃の時刻に合わせて死ぬということだ。鶴田と音信不通になって憔悴しきった娘を気の毒に思った笠智衆は海軍省に赴く。実は鶴田は海軍予備学生として一度は出撃したものの、敵陣へ到着すること叶わず一人帰還していた。よもや特攻隊が帰ってくるとは思わなかった指令部は彼を二階級特進させ戦死公報も発行済みであった。

 せっかく戻った鶴田に「恥知らず!とっとと死んでこい!」と命令する軍部の非情さ。鶴田達は大学生だったので、たたきあげの軍人達からはやっかみ半分に疎んじられていた。もとより「軍人精神」に同調できない鶴田であるから、よけいである。

 再度出撃命令が下った鶴田は八千草に別れを告げるべく自宅に戻る。父親の笠はいよいよ最後の晩になる娘夫婦を少しでも長く一緒にいさせてやろうとあれこれ手はずをする。フロをわかす薪がないので妹の下駄を拝借してしまうところがいい。翌日、遺書とシガレットケースを残して自宅を出る鶴田と「その時」を待つ八千草に予想外の事件が起こる。

 基地へ向かう途中で空襲にあった鶴田はとうとう出撃に間に合わなかった。必死で帰りついた自宅ではすでに八千草は毒を飲んだ後。八千草の死体にすがりつく鶴田。まるで「ロミオとジュリエット」のような情景である。

 鶴田は軍刀を床にとり落としホルスターの拳銃を取り出す。鶴田の足が軍刀をふんずけ、やがて銃声があたりに轟く。国家にではなく「愛」に「旬」じた二人であった。

 戦時下の悲恋を描いた名作といえば「また逢う日まで」があり、これはあくまでもメロドラマに徹した作品であった。比較して本作品は鶴田のキャラクターゆえか「きけわだつみの声」により近い。しかし八千草薫が「服毒」するまでの「ひっぱり」は苦痛だった。「はやく死んじゃえ」ってのもなんだけど、それくらい長かった。ここだけは監督得意の「克明描写」がウラ目にでたかな、と思った次第。

1996年10月11日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16