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五辨の椿


■公開:1964年

■制作:松竹

■監督:野村芳太郎

■助監:

■脚本:井手雅人

■撮影:

■音楽:

■美術:

■主演:岩下志麻

■寸評:岩下志麻が悲しい復讐鬼に扮する時代劇映画。


 山本周五郎原作の映画は概ね面白い。

 病弱な父親を見捨てて男との肉欲に溺れる母親・左幸子。それを呪った娘の岩下志麻がまず男と情事の最中の母親を焼き殺す。

 母親と相手の男がいちゃいちゃしている現場へ音もなく近づき、火をかける。ぽつんと立った小屋の裏手から煙が上がりやがて猛火に包まれる。中からは逃げ遅れた母親の絶叫が。もがき苦しむ母の両手が障子を突き破って助けを求める。それを見つめる岩下志麻は当然見殺しにするのだった。冒頭の強烈なシーンだがこれはすべての始まりに過ぎなかった。

 美しく成長した岩下志麻は母親と関係のあった男達を尋ね歩き時には体を任せて、男がイイ気持ちになったところを殺害する。そして殺害現場の遺体のそばに椿の花を添えていく。椿は死んだ父親が好きな花であった。

 母親の情夫をあらかた始末した岩下志麻はすんなりと捕縛される。事件の探索を続けていた純情な同心・加藤剛は捕えた美しい娘がそのような連続殺人を犯していたことが信じられない。裁定は死罪であろうが、加藤剛は岩下志麻の人生に同情し短い時間しか残されていないが少しでも人間らしいことをさせてやりたいと思う。

 ある日、牢内の岩下志麻が縫物をしたいから裁縫道具を貸してほしいと加藤にせがむ。復讐鬼としてではなく、ようやく穏やかな娘らしい心境になったのかと加藤は快く差し入れてやるが、翌朝、鋏で喉を突いた岩下志麻の死体が発見されるのだった。

 父を愛し、母を憎み男を憎み続けた岩下志麻であったが最後に自分のことを心から心配してくれる男性に出会ってその死に顔は満足気に見えた。加藤剛は椿の花のように激しく咲いてポトリと落ちた岩下の事を偲んで涙を流す。父への思慕か?母親と同じ血が流れていることへの嫌悪か?それとも単なる男性不信の極端な例なのだろうか?加藤剛にとっても観客にとってもなんとも切ない幕切れなのだった。

 岩下志麻の迫力、妖艶さ、そして最後に垣間見せた娘らしい恥じらい。全編、岩下志麻のワンマンショーとなった感がある。それだけ見事だったということだが、カメラ(川又昴)も素晴しかった。

1996年10月11日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16