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キタキツネ物語


■公開:1978年

■制作:サンリオフィルム

■監督:蔵原惟繕

■助監:

■脚本:蔵原惟繕

■撮影:

■音楽:

■美術:

■主演:

■寸評:チロンヌップ大爆発!


 蔵原惟繕という人は日活で「俺は待ってるぜ」「銀座の恋の物語(略して「銀恋」)という娯楽作品を監督していた人。それが日活であかんようになってからはドキュメンタリー方面へ進出した。その行き着いた先というのが「動物もの」だった。今では動物映画といえば「ムツゴロウ」というのが定説だが、疑いもなくそのテのパイオニアであったのは蔵原惟繕であり、この「キタキツネ物語」である。

 流氷に乗って北海道に渡ってきたキタキツネのレップ(声:大林文史)が極寒の地で営巣し、子供を育てる。やがて来る「子わかれ」そして独立した子供達のその後の運命を丹念に、そして多少、感情過多に綴ったドキュメンタリーが本作品。

 一家の姿を語ってくれるのは一本の樫の木(声:岡田英次)。厳しい自然環境のなかで先天的な障害を持っている子、病弱な子、エサを獲れない子、人間の罠にかかる子、そして母狐も罠にかかって次々に死んでしまう。

 いくら北海道の「名物」だといっても所詮、キタキツネは人間にとっては害獣。エキノコックスの媒介でもあるから、画面にはほとんど登場しないけれども、人間によってあらゆる迫害を受ける。中でも強烈なのが「口ハッパ」。餌の中に爆薬を仕込んでおくという、結果を考えると相当にスプラッターな罠である。たしか今はもう禁止されてるんじゃなかったかな?元々はクマとか大型の害獣対策であったはずだが、本作品でも一匹、血まみれになって果てるシーンが登場する。

 かわいらしい子ギツネ達はカメラの前でどんどん死んで、あるいは殺されてゆく。終盤になるとキツネ狩りのスノーモービルの集団に追いかけ回されるシーンすら登場。自然の過酷さと雄大さもさることながら本作品では人間達は徹底的に悪役である。これこそまさにドキュメンタリーといえるだろう。

 この映画のもうひとつの目玉は、全編を網羅しているゴダイゴ朱里エイコ、町田義人の歌だ。音楽監督は佐藤勝。これは動物ドキュメンタリーであると同時に立派なミュージカル映画でもあった。

 この映画が制作されるのとほぼ同時期にNHKがキタキツネの生態を取材した「チロンヌップ(アイヌ語だかで「どこにでもいる生き物」という意味らしい)」を放映したのもこの映画のヒットを応援した。テレビのほうはイルカの主題歌が有名になった。

 この映画がヒットしたおかげでしばらくの間、邦画界は犬(「南極物語」音楽:ヴァンゲリス)や象(「象物語」主題歌:黛じゅん)や猫(「子猫物語」音楽:坂本龍一、ただしこれは蔵原監督ではない)やらに占領されてしまう。いずれも劇伴がヒットしたがこれら全ての作品のフォーマットが本作品である。

 畑正憲の「ほのぼの動物映画」が登場するまでは日本の動物映画といえば蔵原監督の独壇場であったといえる。しかしドキュメンタリーというのは時には「見たくない事実」までむき出しにしてしまうものだ。人間というのはやはり欲張りにできているらしく、作り物でも楽しくってかわいい動物の演技が楽しめる、ディズニーライクな演出による「ペット映画」を求めるようになった。それがムツゴロウ映画である。

 「ディズニー映画の様にしたくなかった」蔵原監督は「南極物語」の時に語ったものだ。ハローキティのサンリオフィルムが手がけた作品だが、やはりあまりにもキタキツネの生態(っつうか、死に様っつうか)が生々しいためかテレビでもなかなか放送されない作品。

1996年11月11日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16