珍品堂主人 |
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■公開:1960年 |
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人間の珍品ってのはうれしかないね、大抵の場合。 古物鑑定ではプロ級の腕前をもつ森繁久彌は、好事家達から「珍品堂」と敬意を込めて呼ばれていた。大金持ちの柳永二郎から、その才能を古物だけでなく料亭経営に生かしてみないかと誘われた森繁は期待に応えようと大張り切り。ただし、経営に際しては、やり手と噂される淡島千景と共同で行うことが条件だった。淡島は柳の愛人。 一流の食材、器、調度品をそろえて料亭は順調にスタートする。淡島千景は若い中居との情事に耽るようになる。淡島に惚れていた森繁はニセモノをつかまされて面子を潰され、淡島を追い出そうとする。そこへ柳永二郎が現われ経営の権利、他一切を森繁から取り上げてしまう。追い出されたのは彼のほうであった。森繁は「人間の目利きにはなれなかった」と憤然と柳の屋敷を後にする。 森繁久彌に鑑定を依頼しに来る連中がクセ者ぞろい。安く値ぶまれて憤慨するもの、思いもかけない値うちを教えられ喜ぶ者など様々だ。実際、そのモノの価値を分かることが嬉しいのではなく、人がどれだけ高く評価するかに一喜一憂する世界なのね、骨董業界って。自分が気に入って納得できる値段で所有できればいいじゃないの、本物かどうかなんてどうでもいいのに、と思うのは私だけ? 淡島千景の演じる女史は、中居の採用に関してオーディションを開催するなど、なかなかモダンな経営センスの持ち主。柳永二郎が「あの人は金に汚いよ」と言ったがそのとおり、身内である森繁が自分の体に興味があるのを知る否や、二束三文の贋作を高額で売りつけたりする。おまけに一番かわいい中居の峯京子(峰京子)と一緒にお風呂に入って足を「マッサージ」させるというレズっ気もある。 かなりおおっぴらに「レズビアン」を描いた映画は珍しいと思う。森繁は相変わらず、女好きなお人好しを演じ、結局は柳永二郎の計略に引っかかって、手塩にかけた料亭も鑑定家としてのプライドも剥奪される。同様に柳に捨てられた淡島千景に懐かれても「騙されるモンカ!」と去っていく。欲と色とが絡んだ人間悲喜劇。豊田四郎の文芸映画はいつも、一味違っている。 (1996年09月18日) 【追記】 |
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※本文中敬称略 |
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file updated : 2003-08-17