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少年


■公開:1969年
■制作:創造社、ATG
■製作:
■監督:大島渚
■助監:
■脚本:田村孟
■原作:
■撮影:
■音楽:
■美術:
■主演:渡辺文雄
■ワンポイント:「あたり屋」一家のロードムービー


 「当り屋」というの実在する。ただし昨今は車に乗っているらしい。

 大島渚作品の常連である渡辺文雄は東大出のインテリだが、本作品の役どころを含め、ブルーカラー以下が多い。筆者が最初にこの俳優を意識したのは「ウルトラセブン」である。星の好きな青年を苛めまくる飯場のオヤジ、黄色いヘルメットが超お似合いだった。

 父親・渡辺文雄、母親・小山明子と少年、それに弟。彼等は「当たり屋」を稼業として日本全国をキャラバンしている。もちろん物見遊山の家族旅行ではなくアシがつかないように行方をくらましているだけだ。少年は学帽を被ってはいるがもちろん、学齢期でありながら学校へは通っていない。彼等は住所不定であるからだ。

 トロトロと走っている車に突進し、ちょいと怪我をしてくるのは母と少年の役目。コワモテの父親は示談にもちこんでたっぷりと加害者(実は被害者)から金をせしめるのである。少年は自分の役割をわきまえてはいるが何となく荒んだ両親の姿に寂しいものを感じている。冬のある日、少年は早朝、旅館を出て一人雪道を歩く。幼い弟が後を追った。少年は雪ダルマをつくって、それを宇宙人に見立てて空想話しを弟にきかせてやる。

 今日も一稼ぎしようと親父が指定した小型トラックに突っ込む少年。ところがトラックはハンドルをとられて雪壁に激突。運転していた若い女が死んでしまう。驚く少年。逃げろ!と叫ぶ親父の声が聞こえてくる。少年は初めて自分の「仕事」を悔やんだ。

 こういう綱渡りのような生活が長続きするわけもなく、おまけに日本は狭いので、やがて警察に目を付けられて両親は逮捕されてしまう。「こんな商売からは足を洗おう」といったんは決意した小山明子。一戸建の借家で親父の帰りを待っているところへ刑事が踏み込む。「仕事」で負った傷を転んだのだと言い張り、刑事の追及にも口を割らない少年は施設に収容されることになった。保護観察官とともに汽車に乗る少年。少年の顔には死んでしまった若い女に対する改悛の情と、どうしようもない両親(と仕事)に決別した安堵感と、一人ぼっちになった不安が複雑に去来していた。

 学帽姿の少年(子役)の演技が実に素晴しい。対して「父ちゃんは戦争に行ってお国のために戦ったんだぞ、それで体が弱って働けなくなったんだ。そんな立派な父親を捨てるとは何事だ」と、愛想をつかして逃げ出そうとした母親と少年の前で説教する渡辺文雄の「どうしようもなさ」が見ている我々の神経を逆なでしてムカつく。「誰のおかげで食えると思ってるのよ、この甲斐性なし」と、内心叫びたい母と少年であるが結局は別れられない、親子の業。

 高度経済成長に乗り遅れたどころか、完全にスポイルされている家族の行き場のない姿。いつも説教臭くて、難解で、押し付けがましい大島渚の「反体制思想映画」であるが少年の孤独で繊細なキャラクターの好演で、抵抗なく見られた。

1996年09月18日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-08-17