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十九歳の地図


■公開:1979年
■制作:群狼プロ
■製作:
■監督:柳町光男
■助監:
■脚本:柳町光男
■原作:
■撮影:
■音楽:
■美術:
■主演:本間優二
■ワンポイント:東京都北区王子の人はかなり気分悪いんじゃないかと思う映画


 昨今は17歳が少年犯罪のピークらしいが本作品の主人公は予備校生、十九歳である。犯罪の低年齢化を実感。

 新聞配達の少年・本間優二は予備校に通っているが、さして大学進学を目指しているわけでもない。集配所の二階に、うだつの上がらない30男・蟹江敬三と同居している。少年は配達先の家、一軒一軒を、「犬がうるさかったからバツ3っつ」「子供が生意気だったからバツ1つ」とか採点して歩くのが趣味。そしてバツがたまるとその家の電話番号を電話帳で調べて「火をつけてやる」とか「殺してやる」と電話をかけるのである。

 趣味が高じた少年は、自分だけの地図を作成することに熱中する。もちろんその地図には彼の「悪魔手帳」に記された採点が転記されている。

 蟹江敬三には、投身自殺しそこなった(マジ、マジ)片輪の娼婦・沖山秀子の恋人がいる。蟹江は彼女のことを「かさぶたのマリア様」と呼んでいた。蟹江は彼女のために、ひったくりをし、八百屋に強盗に入ったところを逮捕される。蟹江の逮捕を知った彼女は少年を誘惑して自殺しようとする。

 少年は町を「支配」しているガスタンクに爆弾を仕掛けたという脅迫電話をかける。かけているうちに涙が溢れて止まらなくなる少年。少年はまた新聞配達を続ける。娼婦は妊娠していた。蟹江の子供だろうか?少年にとっては、もうどうでもいいことだった。

 リアルすぎて匂ってきそうな、映画だ。特に無精髭をはやして、沖山秀子のおんぼろアパートでセックスする蟹江敬三のハマリ方が尋常でない。蟻地獄のような女、沖山秀子が劇中「ビルの5階から飛び降りたの」と告白して足の傷跡(本物)を見せる。マ、マジですぜ、これ。

 少年が新聞の集金に行くシーン。新興宗教に熱中する夫人・白川和子、支払い用の金を盗んで逃げようとしたところを親につかまり折檻される小学生、しらばっくれる中年男、男とやりまくっているくせに「ガンバッテね」と偉そうに説教する一人暮しのOL、少年の家族のことを根掘り葉掘り聞きだし同情する中流家庭の奥さん・楠侑子、どれもこれも少年の神経を逆なでする「許せない」奴らなのだ。

 主人公の少年を「ネクラ」と片付けてしまうのはたやすいが、果たしてそれは、誰にでも(彼ほどストレートではないけれど)起こりうる、ある種のどす黒い感情の発散である。他人を貶めて自分の存在を確認する、差別の構図。そうしなければ「消えてしまいそうな」薄い存在感。無為な日々の中でフッともたげる「敵意」。滅入る映画ではあるが、なんとなく主人公に素直に感情移入してしまいそうで、、それを認めるのが怖いような映画である。

 さて本作品にはかなり場違いな印象で中丸忠雄が特別出演。ショボイ所轄の刑事役だが貫禄ありすぎ、浮いてる。

1996年09月18日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-08-17