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■公開:1968年
■制作:三船プロ、東宝
■製作:
■監督:岡本喜八
■助監:
■脚本:橋本忍
■原作:
■撮影:
■音楽:
■美術:
■主演:三船敏郎
■ワンポイント:


 三船敏郎と言えば黒澤明が監督した作品ばかり挙げる人が多いが、岡本喜八監督の作品に出ているときの三船のほうが筆者は好きだ。確かに天才監督の下では見事なパーツと化していたがやはりそこからはみ出した時、地金が出て魅力があったと思う。

 時は幕末、乞食浪人・三船敏郎は水戸の浪士隊に加わる。隊長・伊藤雄之助は腕の立つ三船を頼りにしていたが信用はしていなかった。浪士一行が利用していた茶屋の女将・新珠三千代を見た三船の表情が変わった。実は三船はさる大身の御落胤で若いころ上級武士の娘と相思相愛の仲になったが、身分が違うと母・杉村春子に無理やり別離させられた過去があった。  

 三船は実父の名前を死ぬまで口にしなかった母親に反発して身を持ち崩したのであった。三船の出生の秘密を知らされ後見人となった商人・東野英治郎が面倒をみていたが、大成する見込みなし!と半ばあきらめて、三船が路頭に迷うのを放っておいた。女将は三船の昔の恋人に瓜二つだったのである。

 三船は人格温厚で誠実な浪人・小林桂樹とその妻・八千草薫の家に出入りするようになった。世をすねていた三船が久々に触れた人間らしい生活だった。

 浪士隊に裏切り者がいるらしい。猜疑心の強い伊藤雄之助は小林桂樹と三船に疑いをかける。三船を倒すのは容易ではないと判断した伊藤は言葉巧みに三船を唆す。「小林桂樹を斬れば正規のメンバーにしてあげるよ」と。三船は親友の小林を船つき場に呼び出し、斬殺する。しかし真犯人は平田昭彦(様)だった。伊藤はよってたかって平田(様)を嬲り者にして殺害する。

 伊藤雄之助のターゲットは時の大老、井伊直弼・松本幸四郎。だが三船の実父こそ井伊大老なのだった。東野英治郎が阻止せんと三船の後を追ったが時すでに遅し。三船は降りしきる雪の中で大老の首を掲げて歓喜の雄叫びをあげていた。

 複雑な出生の悲劇ゆえに小林を斬らねばならない三船の悲しみ(と怒り)。小林に「なぜだ!」と問われながら、おそらくは泣きながら斬りかかる三船。それが間違いだったという事実を知らせず、あまつさえ当の三船すら殺害しようとする伊藤雄之助。武士の社会の非情(非道)さを余すところなく演じて迫力あり。

 ラストの集団暗殺シーン。強訴で大老の籠を止めた稲田重蔵・中丸忠雄が一気に斬りこんで幕をあける。あたりは一面の雪、モノクロの画面に激しく雪が降る。二番手、三番手とラグビーの連携プレーのように間断なく押し寄せる浪士隊に、警護の列はあっという間に崩される。白い雪が血(画面では黒)に染まる。

 腕が飛び、内臓をえぐられ阿鼻叫喚の地獄絵が展開される。激しい息づかいと絶叫だけがあたりにひびき、ついに三船は大老の籠に手をかける。三船の刀が大老を貫いて首をとった瞬間、「侍」が絶滅する寸前の一燃えか、三船敏郎の空しさが見る者に迫る。

 文句のつけようのない映画だったが、ただ一つ。松本幸四郎(1910年生)と三船敏郎(1920年生)は絶対に親子には見えん。

1996年09月18日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-08-17