斬る |
|
■公開:1968年 |
|
いつもはパラノイアな仲代達矢だが、岡本喜八作品では普通の人に見える。 江戸時代、上州の小藩の国境に腹を減らした風来坊・弥源太がいた。通りかかった訳ありの若侍から握り飯をもらう。白米をしみじみ見つめて「白いな〜」と弥源太が感動していると、同じような貧乏臭い武士がこちらを睨んでいる。弥源太・仲代達矢は止むを得ない事情で上司を斬り捨て逐電した元武士。もうひとりは百姓生活に見切りをつけて武士になろうとしていた百姓の半次郎・高橋悦史だった。 二人が空腹の余り鶏を追いかけ回しているうちに、七人の若侍・中村敦夫、橋本功、地井武男、中丸忠雄らが藩主の圧政に反発し、重役を惨殺した。沙汰のあるまで岩山の砦に身を隠す若者の味方についた弥源太。半次郎は、藩の乗っ取りを企む次席家老・神山繁が召集した浪人隊に加わった。浪人隊は若侍の討伐に向かうが、次席家老は若侍もろとも浪人達を抹殺しようとする。 金で集められた浪人達が襲撃の前に女郎屋へ繰り出す。娼婦のなかに借金のかたに売られてきた農家の娘がいて、半次郎は「土の匂いがする!」と大喜びで彼女をほうり上げ(半次郎は怪力が自慢)一夜を明かす。 浪人隊の隊長・岸田森は何か信念をもっているらしく、半次郎はなんとなく気にかかる。岸田隊長は借金苦から恋人を女郎屋に沈めてしまっていたのだった。純朴でまっすぐな半次郎が好きになった岸田隊長は、半次郎に恋人の身請けを頼んで銃弾に倒れる。 敵味方入り乱れての銃撃戦の最中、うっかり砦の中に逃げ込んでしまう半次郎「いけね、俺こっちじゃなかった」と慌てて引き返す、マヌケな好漢である。弥源太は次席家老に囚われてリンチにかけられるが、ここも半次郎の活躍で助かる。半死半生の弥源太は、燭台(ロウソクを刺すための尖ったところ)を槍に見立てて家老を倒す。二畳かそこらの茶室で展開する、マカロニウエスタンばりのワイルドでスピーディーな殺陣シーン。 穏健派の家老・東野英治郎の計らいで若侍達はおとがめなし。半次郎は武士に取り立ててもらうことになったが、、。再び、旅に出ようと国境に来た弥源太。そこへ裃とっぱらった半次郎がやって来る。彼の後には半次郎が家老に頼んで身受けしてもらった、女郎屋の女達がゾロゾロと続いていた。後ろの方には浪人隊長の恋人が遺骨を抱えて従っていた。「俺は百姓に戻る」という半次郎を弥源太が笑顔で見送る。 飄々とした弥源太もかっこいいが、百姓上がりの高橋悦史の半次郎もヌーボーとしててあったかくて凄くイケてる。これに爬虫類のような悪家老の神山繁が加わってくる。浪人隊の隊長、岸田森のニヒルなかっこよさ。国境の荒涼としたシーンは「用心棒」風であるが、風が強すぎて弥源太が吹き飛ばされそうになるところが岡本喜八風であった。 あ、あと中丸忠雄だが最後まで裏切らない役どころなので安心して観ているように。で、本作品が東宝専属俳優としては最後の作品。 (1996年09月18日) 【追記】 |
|
※本文中敬称略 |
|
file updated : 2003-08-17