「日本映画の感想文」のトップページへ

「サイトマップ」へ


怒れコブラ 撃たれる前に撃て


■公開:1974年
■制作:松竹
■製作:
■監督:井上梅次
■助監:
■脚本:井上梅次
■原作:
■撮影:
■音楽:鏑木創
■美術:
■主演:田宮二郎
■ワンポイント:超キザなハミダシ刑事がダルくて全然スカッとしないアクション映画


 筆者は田宮二郎の熱烈信者だ。従って本作品における田宮さん本人の悪口は書かない。

 警視庁の嫌われ者、小村刑事・田宮二郎は荒っぽい捜査で有名。そのスジでは毒蛇の「コブラ」よばわりされるほどの暴力刑事である。さて今夜も銃砲店に立てこもって、意味不明の言葉を喚き散らしている、ホームレス風の蟹江敬三を、説得するふりをして、さっさと銃撃。重傷を負わせる。

 小村刑事の元彼女が山本陽子で、イイ線までいったらしいが、少壮のエリート検事・中丸忠雄と結婚してしまっている。その検事が携わっている事件が少々ヤバイ。政界の大物が裏で糸を引いていると察知した小村刑事は、山本陽子に頼まれて、わざと捜査を撹乱し自ら囮になって、検事の暗殺を食い止める。

 そも、田宮二郎という俳優は、財閥の大番頭の倅にして、学習院卒という華麗な学歴。食料事情の悪かった世代であるはずの戦中派にしてはなかなかの長身と、バストが1メートルもある巨乳系、じゃなかったスポーティーな体型。さらに冷酷さと甘さが同居したような、母性本能をくすぐるマスクが売り物。ミスター日本、という「イイ男」コンテストをクリアしたというプレミアつきの、超二枚目俳優であった。

 敵方の組織さし回しの暗殺軍団であるところの、中国人の空手使いに襲われ、田宮二郎もカッチョイイ殺陣を見せてくれる、はずだった。しかし、この暗殺団はやたら「バック転」や「側転」が好きな連中で、見かけは派手だが、肝心の攻撃技はオソマツという情けない連中。かたや田宮二郎も、彼等の京劇まがいの演技に、待ち疲れたのか、攻撃する姿がやたらに力みかえっており、息苦しいことこの上無かった。

 田宮二郎は捜査のためなら女を口説いて垂らしこむのなんて全然平気。すっかりその気にさせられたフロアーダンサーの田口久美とベッドイン。田口はセクシーなダンスを舞ながら少しづつ服を脱いでいく。徐々に暗くなる室内で、かすかな照明に浮かび上がる、田口のクネクネダンスとそのワイルドな唇はまるでホラー映画のようだった。

 井上梅次といえば後の、土曜ワイドにおける「明智小五郎(天知茂)シリーズ」で悪趣味の限りを、これでもかとやりつくした監督だ。ムードアクションの巨匠であり、そのサービス精神においては日本映画屈指の職人である。この作品でも、愚鈍なアクションと、汗臭いエロシーンをさんざっぱら見せつけたラストシーンで、神宮外苑の並木道風のセットにスモークをがんがん炊き、田宮二郎と山本陽子をまるで爽やかな青春カップルのように歩かせ、清く別れるというどんでん返しを見せる。

 当時ブームだったカンフー映画と、米国産のスパイアクションと、ゴルゴ13の美味しいところを集めようとして、力一杯、ウラ目に転んだ作品。ともかく田宮二郎の「純国産映画」のこれが遺作である。さぞや無念であったろうと同情する次第だ。

1996年09月18日

【追記】

※本文中敬称略


このページのてっぺんへ

■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-08-17