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求人旅行


■公開:1962年
■制作:松竹
■製作:深沢猛
■監督:中村登
■助監:
■脚本:笠原良三
■原作:
■撮影:平瀬静雄
■音楽:牧野由多可
■美術:佐藤公信
■主演:高千穂ひづる
■ワンポイント:南原宏治と吉田輝雄のボケとツッコミ。


 松竹は「喜劇・××列車」「喜劇・××旅行」という庶民的な、要するに善人の善人による善人のための喜劇シリーズで知られるわけですが、本作品は同様のテーマを「愛染かつら」(吉田輝雄・岡田茉莉子のリメイク版)の中村登が監督しました。

 箱根の老舗旅館「翡翠苑」の女将、千代子・高千穂ひづるは後妻の後家さんで、義理の娘の早苗・桑野みゆきとは姉妹ほど年回りが近いです。旅館の客として泊まりに来た丹野・南原宏治によって大量の女中引き抜きをされた千代子は困って東京のスカウト会社に従業員の確保を依頼、ところが担当になったのが当の丹野だったので千代子はカンカンに。とは言うものの、腕が確かなのは千代子も納得しているので、日本全国を部下の望月・吉田輝雄とスカウトキャラバンしている丹野に娘の早苗を引き連れて同行することにします。

 映画はあの手この手で世間知らずの若い娘をたらしこむスカウトマンたちの悪戦苦闘と、女盛りの千代子と現代娘の早苗の恋を絡めて、旅番組の要領で進行していくわけです。「狐のくれた赤ん坊」の現代翻訳版「集金旅行」、スキャンダル女優の逃避行「危険旅行」に続く中村登監督の旅行シリーズ第3作はすっかり安定志向。

 まだテレビがあまり普及してない時代には映画が最強のメディアだったので、このように全国各地の名所を旅する映画は、都会に出てきた田舎の人にとっては郷愁を、都会に住んでて田舎の無いひとには「今度の休みは旅行でもするか!」な起爆剤として活躍していたんですね。

 人生の酸いも甘いもかみすぎて「悪人面」になったスカウトマンと美人の後家さん、純情で二枚目だけどどこか一本抜けている青年と現代娘、この二組のカップルが旅行の途中でいさかいを起こしつつも徐々に結ばれていく、結末まで丸わかりの超安心映画。

 旅先で出会う、熟練された喜劇人、由利徹若水ヤエ子かしまし娘桂小金治らの名人芸を堪能しつつ、主役デビューは「坊ちゃん」というサワヤカ系にもかかわらずどんどん演技過剰な強面キャラクターに進化していった南原宏治の喜劇的才能を満喫できます。また、石井輝男の最終兵器、永遠のニュートラル青年、吉田輝雄がジャンボなお色気をふりまく海女のダンスに翻弄されたり雄たけびあげたりするのも、まったりとした客の脳みそを思いっきりトランス状態にしてくれることでしょう。

 主題歌は東宝専属かと思ってたミッキー・カーチス。ロカビリーの人の中では最も長生きしたマルチタレントの小春日和のような歌声で気分もすっかりリラックス。

1996年10月02日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-08-17