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マタンゴ


■公開:1963年
■制作:東宝
■監督:本多猪四郎
■助監:
■脚色:木村武
■原作:星新一、福島正実
■撮影:小泉一
■音楽:別宮貞雄
■美術:育野重一
■特撮:円谷英二
■SFX:有川貞昌、富岡素敬、渡辺明、岸田九一郎
■合成:向山宏
■主演:久保明
■寸評:男の悦楽はキャバレー!


 米題:Attack of the Mushroom People、直訳すると「きのこ人間の襲撃」たぶんディズニーの「ファンテイジア」に出てくるみたいな中国服を着たきのこが集団で踊りながら出てくるような印象ですが、この映画は全然そういうのとは違います。

 プチブルのぼんぼんが仲間と大西洋へクルージングとしゃれ込みますが、途中で嵐に遭遇し謎の無人島へ漂着します。乗っていたのは鼻持ちならない二代目社長でヨットのオーナーの笠井・土屋嘉男、笠井の愛人の麻美・水野久美、笠井の部下である作田・小泉博、推理作家の吉田・太刀川寛、漁師のせがれでマッチョの仙造・佐原健二、大学の助教授である村井・久保明、その恋人の明子・八代美紀

 立場も出自も異なる登場人物たちが腹の底で抱いていた邪悪な感情が謎の無人島で剥き出しになります。まるでゴールディングの「蝿の王」かベルヌの「十五少年漂流記」のようですが出てくる人たちはみなイイトシこいた大人です。大人は汚いですから、極限状態になると色と欲とのせめぎあいに即発展するのです。

 通信手段も無く、そもそもここがどこだか全然不明、島は無人島らしいですが、一行は島のはずれで難破船を発見します。そこには乗務員が残したらしいキノコの標本がありました。そのなかでひときわでかい一品には「マタンゴ」と記されていました。なにか食い物でもないかとあたりを探しますが、不思議なことにその船の鏡という鏡は全部壊されているのでした。

 理性派のはずだった作田が残った食料を独り占めして脱出しますが失敗、色に迷った仙造は射殺されます。腹は減るし帰還は絶望?と思い始めた一行の前にキノコ人間が登場します。

 島に生えているあるキノコを食べると、体が同化して自分もキノコになってしまうのです。難破船の鏡は、醜く変化していく自分の姿に耐え切れず、人間の意識が残っていた乗組員が叩き壊していたのでした。元々人間だったマタンゴは、新たな犠牲者を待っていたのです。

 もう助からないんだからさ、思いきってキノコになっちゃって「仲間」と一緒に楽しく暮らしましょう!キノコを食べて、自らその媒介となった水野久美さんの主張は実にクールですね。人間ここまできたら、ここまでふっきらなくっちゃ!っていう感じです。人体を触媒にして子孫繁栄を思いついたキノコたちですが、そのキノコは原爆雲をイメージしてデザインされたそうです。マタンゴは人間の度重なる核実験によって放射能汚染された、普通のキノコの突然変異だったのです。

 まさに因果応報というわけですね。

 この映画の見所は、毒々しいキノコのビジュアルです。ケロイドのような、皮膚の下から沸騰した泡のようにぼこぼこと涌き出てきてそれが不気味に発光します、かなり気持ち悪いです。全身イボイボでテカテカのデカイ(リーダーっていうか、よく目立つマタンゴは天本英世さんなので)のがわんさと襲ってくるんです。なんせ相手は菌類ですから、増えること増えること。

 ただ一人生き残った村井はかろうじて救助され病院送りとなります。そして衝撃のラストシーンが訪れるのですが、ここんところは書かないのでもう見ちゃった人だけ、ね[とうとう彼はキノコを口にしてしまいセミ・マタンゴになってしまっていた]。

 それにしても、キノコたべて見る幻想が、キャバレーのバタフライつけたおねーちゃんっていうのが、そのなんていうか男の悦楽ってやつですか?そう言えば「電送人間」は軍隊キャバレーなんてコスプレだったし、「美女と液体人間」でもサパークラブが舞台だったし、制作当時の殿方の風俗事情がうかがい知れるところですね。

1996年09月02日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-08-17