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ジャズ大名


■公開:1986年
■制作:大映映像、喜八プロダクション、松竹(配給)
■製作:山本洋、小林正夫
■監督:岡本喜八
■助監:月の木隆
■脚本:岡本喜八、石堂淑朗
■原作:筒井康隆
■撮影:加藤雄大
■音楽:筒井康隆
■美術:竹中和雄
■主演:古谷一行
■寸評:


 本田博太郎、かつてはテレビメロドラマで流行歌手役を演じ、岸田智史の2匹目のドジョウを狙ったこともある二枚目俳優だったはずですが今じゃあ「北京原人・who are you?」と来たもんだ。そのルーツはこのへんに?

 南北戦争終結後、黒人奴隷のジョー・ロナルド・ネルソンは弟のサム・ レニー・マーシュ、いとこのルイ・ファーレズ・ウィッテッド、おじさんのボブ・ジョージ・スミスとともにアフリカへ帰るためにジャズバンドを編成しやっとこさ金をためて乗りこみます。しかしメキシコ商人・アマンド・ミッキー・カーチスにだまされてしまい彼らはあやうく香港へ売られそうになりますが、途中で船は嵐に遭って沈没してしまいます。

 駿河湾に面した庵原藩の領地内に流れついたのは、ジョー、サム、ルイの3人だけでボブおじさんは船の中で壊れたクラリネットを抱いて死んでしまいました。珍客の処遇に窮した家老の石出九郎左衛門・財津一郎が、江戸表にご意見を伺うと「藩主に一任」するという連絡が入ります。

 藩主の海郷亮勝・古谷一行は名前もヘンテコですが大の音楽好きというライトな性格の殿様でした。彼には妹が二人いて、おしとやかな文子姫・神崎愛
と男勝りの松枝姫・岡本真実です。松枝姫は亮勝の趣味には理解を示していますが、公務をサボって篳篥(ひちりき)を吹いて遊んでいるのをいつも石出さんに怒られていた亮勝は、漂着した黒人達の持っている西洋の楽器に興味津々です。しかし名前もカタイが性格も律儀な石出は絶対に許してくれません。

 「あの楽器に触れてみたい!辛抱我慢たまらんのじゃ!」と亮勝がせがんでいるところへ、江戸表の奥方が懐妊したという知らせが来ますが、奥方と別れてからの月数と一致せず、不義の子供であることが判明。監督不行届の責任を感じて石出は切腹を申し出ます。これ幸いと亮勝は、切腹しなくていいから、彼等に会わせろ!楽器で遊ばせろ!と大暴れ。

 亮勝は通訳の鈴川門之助・本田博太郎から、彼らの身の上を聞きます。そして壊れたクラリネットをプレゼントしてもらってとうとう亮勝の音楽好きの血が押さえきれないくらいたぎってしまうのでした。

 亮勝がクラリネットを直して吹き始めるち、桶の底をコンガのように叩いてリズムをとるジョー、ルイ、サム。軽快なジャズのリズムに城内の者共が大集合します。笛や太鼓や三味線まで繰り出した巨大なジャムセッションが始まりました。

 その間に百姓一揆やら官軍やらが、セッションをしている頭の上で戦ったり踊ったり戦争したりしながら通りすぎていきます。亮勝が細長い城内の襖や仕切をとっぱらって、そこを天下の往来として解放したのでした。全員でフラフラになるまで大騒ぎをしている間に、時代は明治になっていました。そして城の跡地は後に「東名高速道路」になるのでした。

 音楽には洋の東西も人種も宗教も政治も関係無し、戦争だかお家だかに執着する奴よりも俺は音楽が好きなのさ!という主張はとてもクールです。かつて「血と砂」で少年たちを全滅させた岡本監督ですが、本作品ではごり押しの感さえ覚える「戦中派の主張」が影を潜めたぶんだけ映画の娯楽性がパワーアップしているようです。

 ふっきれてるなあ、って感じ。それと、東宝の乏しい資源(監督の大のお気に入り=ミッキー・カーチスは除く)で無理やりミュージカルにしなきゃなんなかった昔と違って、山下洋輔やらを遣い放題なんでその音楽的なセンスもぐぐっと洗練されてます。

 大人の皆さんがなにか悩み事があったらまっさきに見るといい映画の一つ。

1996年09月18日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-08-17