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「エロ事師たち」より 人類学入門


■公開:1966年
■制作:今井プロダクション、日活(配給)
■製作:今村昌平
■監督:今村昌平
■助監:
■脚本:今村昌平、沼田幸二
■原作:野坂昭如
■撮影:姫田真佐久
■音楽:黛敏郎
■美術:高田一郎
■主演:小沢昭一
■寸評:キネマ旬報主演男優賞(小沢昭一)、毎日映画コンクール男優主演賞(小沢昭一)、毎日映画コンクール女優主演賞(坂本スミ子)


 ブルーフィルムを制作しているスブやん・小沢昭一は理容店の女主人、松田春・坂本スミ子と愛人関係。春は夫に先立たれて以来、息子の幸一・近藤正臣、娘の恵子・佐川啓子と暮らしています。ある日、スブやんの商売に目をつけた暴力団が乗り込んできて商品を奪われます。

 「エロ事師」の相棒、伴的・田中春男は暴力団と手を組もうと言いますが、純粋なエロ魂を持つスブやんはこれを断ります。いよいよ、この商売もヤバくなって来たか、とスブやんは観念しますが、彼が考え付いた次なる「エロ事」は会員制のスワッピングクラブでした。

 他人様に「エロの幸せ」を提供し続けたスブやんはとうとうインポテンツになってしまいます。一方、春は家庭内のイザコザなどから心労がたたり、とうとう精神に異常を来たして入院、スブやんと怪しい関係になった娘の写真を針でズブズブにして死んでしまいます。春の葬儀を終えたスブやんは理容店を継いだ恵子と折り合いが悪く、自分だけ川に小船を浮かべて春のダッチワイフ制作に情熱を傾けます。

 冒頭、山を上ってくるブルーフィルム撮影隊。このエロ8ミリの主演男優というのが、東映のエノさんこと榎木兵衛。なすびの様なフェイスに詰め襟姿で登場するのが、これがまた思いっきりいかがわしくて笑えます。いわゆる一つの「コスプレ」ってやつですね。このように欲情を人間の最も純な欲求と考えるエロの求道士、スブやんはまことに先鋭的なアート魂を持ってる人なわけです。

 小沢昭一は「犬」シリーズでも坂本スミ子と夫婦でした。坂本スミ子の狂人演技は迫力があり鬼気迫るものがあります。興奮させてはいけないと医者・北村和夫から言われていたのに、つい求めてしまった小沢昭一が目を離した隙に鉄格子のはまった窓によじ登りネグリジェ姿で「男と〜女の〜針仕事〜」という春歌をげらげら笑いながら絶叫します。深海魚を想像させる坂本スミ子のエネルギッシュな熱演には感動しつつも引きます。

 踏まれても蹴られても「エロ」を追及するスブやん。ラストはろうそくの明りでダッチワイフ制作にいそしむ彼の小船が嵐の中、綱が切れてしまい東京湾へ漂っていきます。さらにこの「ダッチワイフ号」は外海へ出て行ってしまうのでした。だだっぴろい海原にポツンと浮かぶ小船がやがて、8ミリの画面になります。そこへ「コイツ、どないなるんやろな」と伴的の声。「そんなこと知るか、さあ次行くでえ」とスブやんの声。

 人間の煩悩はまるで海のように、その中を漂うちっぽけな小船がまさに人生そのものであるということでしょうか。いろいろと読みごたえのあるオチですが要するに「男ってどーしょーもない馬鹿よね」っていうあたりが本線ではないかと思われます。

1996年10月02日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-08-17