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妖怪百物語


■公開:1968年
■制作:大映京都、大映(配給)
■監督:安田公義
■脚本:吉田哲郎
■撮影:竹村康和
■音楽:渡辺宙明
■美術:西岡善信、加藤茂
■主演:藤巻潤
■寸評:林家正蔵師匠の顔、じゃなくて落語がかなりコワイかも。


 豪商、但馬屋利右衛門・神田隆と結託した堀田豊前守・五味龍太郎が百物語という怪談の会を催します。これは出席者が一人づつ怪談を語りそれが終わるたびにろうそくの灯ひとつ吹き消していき、最後の1本が消えたときにまじないをしないと怪異が起るという言い伝えがありました。

 利右衛門は豊前守と結託して長屋を取り壊してそこにアミューズメントセンター(または岡場所ともいいます)を作ろうとしていました。利右衛門は最後の一人、噺家・林家正蔵の怪談話が終わったのにおまじないをしませんでした。

 さっそく怪異が利右衛門と豊前守の周囲で発生します。客の一人がおいてけ堀にさしかかると、怪談話と同じように無気味な声が聞こえてきて利右衛門からもらったお土産の小判はすべて堀の中に吸いこまれていきました。

 長屋の浪人、安太郎・藤巻潤はまるで山本周五郎の小説にでも出てきそうなシチュエーションで正体不明ですがおきく・高田美和、お仙・坪内ミキ子という長屋のアイドルにモテモテです。安太郎はピンチになった長屋の差配、甚兵衛・花布辰男のために利右衛門の屋敷から金を失敬して借金を返済させて証文を取り返しますが、卑怯な利右衛門は手下の重助・吉田義夫に命じて甚兵衛を殺害します。

 魚殺しても取りつかれるっちゅーのに、人まで殺したら祟りの度合いも大幅アップするのは当たり前というものでしょう。

 長屋が取り壊される日、集まった人夫たちは血のようなあやしい太陽の下で妖怪たちに襲撃され消えてしまいました。利右衛門と重助も馬鹿でかい大首・小柳圭子という妖怪に襲撃され相討ちになります。豊前守の悪事をあばきに向かった安太郎ですが、すでに妖怪の大群が豊前守に襲いかかっており、ついに発狂した豊前守は自害してしまいました。

 そもそも怪談話には教育的指導の目的で創作されたものが多いですよね。神仏を敬えとか、夜中にふらふら出歩くなとか。

 「おいてけ堀」のエピソードはこうです。親しい浪人仲間、伊達三郎山本一郎が釣りに出かけます。。しかしその堀は「殺生厳禁」つまり魚を釣ってはいけない場所でした。大きな魚を釣り上げて意気揚々引き上げようとしたときに「お〜い〜て〜け〜」と不気味な声。それを無視した一人が家に帰り女房・毛利郁子に調理を命じると、、。

 室内の明りがフッと消えたら妖怪が出る合図です。「血、血がとれないのよ〜(「蜘蛛巣城」の山田五十鈴じゃありませんよ)」と障子の向こうの女房の首がスーッとのびて、、、。結局たたりをうけて二人の浪人は死んでしまいます。この美人ろくろ首の迫力はすごいので、それが評価されたせいでしょうか?毛利郁子は続く「妖怪大戦争」ではピンのろくろ首役で活躍します。

 「むじな」は狸のことです。のっぺらぼうのエピソードですね。夜半にほろ酔いかげんで男が歩いていると道端で女が苦しんでいます。男、少々スケベ心をおこして介抱してやるとこれがなんと「のっぺらぼう」。逃げ出す男が助けを求めた夜鳴きソバ屋。「こんな顔でしたか〜?」と振り向くおやじの顔が、、、。どっひゃ〜〜〜。

 まるで夜店の「六尺の大イタチ(正しくは「六尺大の板に塗られた血、実はペンキ)」的ノリですね。

 長屋取り壊しのときの特撮はなかなか面白いです。リアルな貧乏長屋のセットにたちまち不気味な風が吹き、今まで燦々と輝いていた太陽がどす黒い赤色に変わりなんとそこへ巨大な火の玉が出現します。取り壊しに来た職人の一人が火の玉めがけて鳶口を投げる。それがくるりと(アニメーション処理)と反転して男の胸板へグサリ!ひえ〜となる一同。雷鳴が轟き右往左往する彼等の姿が忽然と消えてしまうのです。

 妖怪映画でありながら、ちっとも怖くないです(ただし夜空にいきなり出現する大顔面は除く。あれはコワイ、て言うか腰抜かします)。むしろキッチュな妖怪たちの活躍に拍手で応援したくなります。それはただおどろおどろしいだけではなく、妖怪たちが善良なる者を庇護する立場であり、決して弱いものイジメをしないからです。

 大映の美術力が全開の妖怪映画ですが、妖怪たちのアクションにも注目したいところです。その摩訶不思議な動きを幻想的に演出するためにトランポリンやスローモーション、無処理といくつかのシーンをオーバーラップさせて光学技術ならではの多重合成で深みのあるファンタジックなシーンを実現しています。

 利右衛門の息子でオツムは弱いですが気持ちのやさしい新吉・ルーキー新一の前にだけはコワイ妖怪は出てきません。ここいらへんがウケたのか、次の「妖怪大戦争」ではさらにファンタジー色が増していきます。

1996年08月17日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-08-17