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美女と液体人間


■公開:1958年
■制作:東宝
■監督:本多猪四郎
■助監:
■原作:海上日出男
■脚色:木村武
■撮影:小泉一
■音楽:佐藤勝
■美術:北猛夫
■特撮:円谷英二
■SFX:渡辺明、荒木秀三郎、有川貞昌、向山宏
■主演:佐原健二
■寸評:中丸忠雄さんがどれだけ「火薬嫌い」かわかる映画。


 「パラサイトイヴ」(監督・落合正幸)を見て本作品を思い出した人はとても共感できますが、かなりキテる人です。

 深夜の東宝撮影所オープンセット、じゃなくて銀座の街かど。土砂降りの雨の中、地味な運転手やらせたら日本一の佐田豊が運転するタクシーが一人の男を轢いてしまいます(このときのうなだれ演技は「天国と地獄」を彷彿とさせます、て言うかこの人ってこういうのばっかかも)。何事かと駆け寄るアベック・夏木陽介家田佳子の目の前で男の死体は忽然と消えます。それを見てあわてて走り去る乗用車がありました。

 死んだはずの男は三崎・伊藤久哉。三崎はやくざの内田・佐藤允、西山・藤尾純らと麻薬の密売をしていました。警視庁では富永・平田昭彦、宮下刑事部長・小沢栄太郎、坂田刑事・田島義文、田口刑事・土屋嘉男、関刑事・中丸忠雄らが犯人は消えて無くなったんじゃないかと真面目に話し合っています。三崎の情婦はキャバレーの口パク歌手、新井千加子・白川由美でした。千加子は西山に襲われますが西山もまた雨の中で姿を消します。

 生物化学の権威、真木博士・千田是也と、その弟子である政田・佐原健二は、原爆実権で被爆した第二竜神丸の船員・瀬良明から奇妙な幽霊船の話を聞きます。富永刑事とポン友の政田は液体化した人間がこれらの事件の犯人なのではないかと推理しますが、刑事たちには一笑にふされてしまいます。

 キャバレーの控え室で千加子の前に現れたドロドロの生物は、内田のパシリをしていたボーイ・桐野洋雄と踊り子・園田あゆみを溶かしてバタフライだけにしてしまいます。坂田刑事も溶かされてしまい、ついに警察は本腰を入れて液体人間対策を考えるようになります。

 佐原健二が理系のキャラクターをやるたびに「似合わない」と思うのは私だけでしょうか。

 液体人間は溶かした人間の意思を持っているというところがミソ。どうやら早くに食われた人の意思のほうがヒエラルキーが上なのか、日本へ帰りたい一心で竜神丸の船員たち・大村千吉加藤春哉を溶かした液体人間が東京へ上陸、三崎の情念が濃かったせいか千加子の周辺に徹底的に出現し時には彼女を守るようなアクションをするのが哀れさを誘います。

 麻薬密売事件がこれに絡んで警察が重要人物として千加子のアパートに踏み込みます。着替え中の白川をチラっとのぞこうとして襖を思いっきり閉められてニヤニヤする土屋嘉男がいつもの清廉なイメージぶちこわしてちょっと笑えます。バタフライ姿の美女の悶絶シーン(ってそんなたいそうな)といい、さすが大人向けの特撮スリラー映画ですね。そのわりに白川由美のガードが固すぎるって言う気もしますが。彼女、次の「電送人間」でもせっかく途中まで脱いだのに色気ゼロのパジャマに速攻で着替えちゃうし。

 液体人間はずーっとドロドロズルズルしているだけで実態がはっきりしないのが恐怖感を煽ります。おまけに移動速度がけっこう早いのもコワイです。襲われた人間がブクブクと音を立てて溶けるシーンがとにかく迫力ありますね。ビジュアルとサウンド両方がうまくミックスされたシズル感が不気味で陰湿で、これぞ日本の特撮映画って感じです。

 麻薬密売の売り上げ金を独り占めして地下水道に追い詰められたやくざの佐藤允と白川由美(なぜかシュミーズ姿で胸キュン!)に忍び寄る液体人間!白川の恋人と佐藤に手先として使われたチンピラが「まざっている」せいか佐藤にだけ襲いかかり溶かしてしまうのもグッド。水面に浮かぶ5000円札(ここが時代ですね)。

 水に対抗するために、知性派だけどイマイチ緊張感に欠ける真木博士が考え付いたのは火あぶりの刑。うーんまるで「遊星からの物体X」(J・カーペンターのリメイク版)みたいですね、ってこっちの映画のほうが先ですけど。

 しっかし若いなあ中丸忠雄。この後、「電送人間」で屈強な殺人鬼やるだなんて想像つきませんけどね。佐原健二にみそっかすにされてぶーたれるところも可愛いし、キャバレーの地下で銃撃戦やるときなんか、まだ若手だから実銃の空砲持たされて泣きそうな顔して撃ってるし。この作品からかもしれませんね中丸さんが「火薬嫌い」になったのは。

 追いつめられた液体人間を焼殺するためにガソリンが撒かれ一斉に火がつけられます。地下水道を這う炎に囲まれ呆然と立ち尽くす2体の液体人間。お堀から噴き出す紅蓮の火柱が地獄の猛火のようで夜更けの丸ノ内のジオラマに陰鬱で不気味なイメージを創り出して余韻を残します。

 やっぱ「謎のナントカ」ってのがいいんですよね。本多監督の「変身人間シリーズ」本作品と「ガス人間第一号」です。どちらも人間への情愛が根底に感じられる秀作です。

1996年08月03日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-08-17