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八つ墓村(松竹)


■公開:1977年
■制作:松竹
■監督:野村芳太郎
■助監:大嶺俊順
■原作:横溝正史
■脚本:橋本忍
■撮影:川又昂
■音楽:芥川也寸志
■美術:森田郷平
■主演:鶴田浩二
■寸評:渥美清の金田一耕助の出来映えやいかに?


 戦国時代、毛利勢との戦に敗れた尼子一族が山村に住み着きます。最初は警戒していた村人たちとも打ち解けて、ここが安住の地となるかに思えましたが、執念深い毛利勢がかけた一族への懸賞金に目が眩んだ業突く張りの百姓たちが、尼子義孝・夏八木勲と落武者・田中邦衛稲葉義男たちを祭の夜に暗殺しようと企てます。

 このときの百姓たちのリーダーが庄左衛門・橋本功(多冶見家の先祖)でした。毒を盛られてなぶり殺しにされた尼子義孝は村人たちを呪う言葉を残して絶命します。その後、庄左衛門は発狂して自分の首を自分でハネて死にました。祟りを恐れた村人たちは八人の落武者を弔う塚を作りましたので、この地は「八つ墓村」と呼ばれるようになります。

 昭和になって、身寄りの無い青年、寺田辰弥・萩原健一が、この呪いの地「八つ墓村」へやってきます。彼は土地の資産家、多治見家の跡取だということでした。病床の多治見久弥・山崎努は彼に財産を譲ると遺言を残し、双子のばーさん、多治見小竹・市原悦子と多治見小梅・山口仁奈子に看取られて死にます。

 多治見家に伝わる陰惨な伝説と歴史を利用したかに見えた真犯人でしたが、それらが実は尼子一族の怨霊の仕業だったのではないか?人の執念というのは恐ろしいものですねえ。

 頭に懐中電灯をくくりつけて疾走する、久弥の父、多治見要蔵・山崎努があまりにも強烈なインパクトを与えたために、「たたりじゃ〜」という流行語まで生んだ当時の話題作です。これは「丑三つの村」と同じ昭和13年に起きた「津山三十二人殺し」がモチーフになっているんですね。ただし原作ではここいらへんがあまり説明されていないんです。この原作が新青年に連載されたのは昭和24年(1949年)〜ですからまだ記憶がレアな頃でしょうし、遺族と関係者への配慮もあったと思うわけです。ですからそのものズバリな表現は、この映画からなのではないでしょうか。

 んなわけなのでこの映画は推理映画というよりは、ホラー映画になってんですね。

 要蔵の大量殺戮(赤ん坊まで見境無し)といい庄左衛門の自殺といい、やっぱ松竹ってそういうスプラッターに慣れてないからどうもねえ、という感じでした。特に、前者はそのものズバリをあまり出せないお品の良さがかえってマイナス、後者は人形だったし。

 犯人は主に「毒殺」でもって殺人を繰り返すんですけども、この毒殺、ってのはどうもいけないんですねえ。死に様が汚いんですよ。結核患者の「喀血」はきれいですけど「吐血」とか「嘔吐」でしょ?この場合。「胃から出る血」はバッチイんですよそれに「内容ブツ」ならなおさら。それも加藤嘉中村伸郎下条正巳とか失礼ですけどお年寄りの死体(役)ってなんか現実味ありすぎて怖いんですよ、見てはいけないモノを見たような気がして。まして吐しゃブツなんかにまみれた日にゃあ、生理的に許容範囲を超えます。「血痰」って糸引くんですよねえ。そういうところは大盤振る舞いなんで、ご飯食べれませんね、この映画見ながら(しない、って?)。

 スプラッターシーンが全面的にこの血痰のようにドロドローっとしてるんです、この映画。山口和彦監督のみたくお祭り騒ぎのような血のシャワーじゃないんですよね、比べるのはどうかと思いますが、なんとなく。

 落武者の惨殺シーンもねばっこいです。竹槍で胴体を串ざしにしたり首をはねたりそれを一人づつ丹念にカメラが追うんです。このときの田中邦衛の「重力無視の生首飛行シーン」をどこかで見たことがあると思ったら「大魔神 怒る」で石像が爆破されるシーンでした。ただし石像は腕に噛みついたりはしませんでしたが。

 ある意味、ダサいんですよ、この監督ってドキュメンタリーは上手いですけどこういうケレン味全開のキワモノは全然駄目みたいですね。

 お堂に晒された生首の夏八木勲が雷光に「くわっ」と見栄だかなんだかを切るのも凄いです。ここは後に、和田誠監督の「金田一耕助の冒険」で「死後痙攣!」とギャグにまでされたトホホな場面です。また、落武者のたたりを受けたと思われる村人の橋本功。嵐の夜、突然狂い出し、村人を殺しまくり、自分も刀を頚椎に押あてて倒れ込みながら自殺して果てるんですけど、もうすこしちゃんと間接が動くダミーを使って欲しかったですね。

 でもってこの作品の金田一探偵・渥美清は何をしているかというともっぱら「リサーチ」に専念。村に戻ってからは、たたりの張本人と目された辰弥が洞窟の中でケバイ化粧をした殺人鬼・小川真由美と格闘している最中、のんびりと村人相手に謎解きをしているのです。大体、金田一って犯罪の防止にはホント、役立たずですよね。

 さらにすごいのがラスト。炎上する屋敷を見つめて丘の上で意味もなく尼子義孝以下、落武者たちの亡霊がゲラゲラ笑うシーン。いやあ萩原流行もそうですけどね、夏八木勲の特殊メイク抜きの「般若」顔には恐れ入ります。親に感謝しましょうね、夏八木さん。

 気弱な巡査、新井巡査・下絛アトムは、とばっちりで殺される下條正巳の実の息子、トンだところで親子共演でした。

1996年08月23日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-08-17