日本沈没 |
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■公開:1973年 |
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ハリウッド映画「大地震」は極限状態における人間ドラマがテーマ。本作品もその路線であったと思うのだが「日本が沈む」という状況のインパクトが強すぎてしまい、群像劇に終始したと言う感じ。企画が当ればこんだけ儲かります、という事実をまざまざと見せつけた昭和の超大作。 地球物理学・(東大教授)竹内均、耐震工学・(東大教授)大崎順彦、海洋学・(東大教授)奈須紀幸、火山学・(気象研究所地震研究部長)諏訪彰。役職は当時のものですが竹内教授は本編にも堂々と出演し、あの強烈なべっ甲メガネで一躍その顔かたちが知られるようになりました。 平和と繁栄の絶頂にいる日本。その足元である日本海溝を調査していた地球物理学者の田所博士・小林桂樹、幸長助教授・滝田祐介、そして深海艇の操舵士、小野寺・藤岡弘は大規模な乱泥流(地すべり)を目撃し、日本列島が沈没する危機に瀕していることを知ってしまいます。 山本総理・丹波哲郎と謎の100歳、渡老人・島田正吾からの極秘裏の指示により、内閣調査室から邦枝・中丸忠雄、情報科学専門の学者である中田・二谷英明、その助手の片岡・村井国夫らが田所の研究所を訪問し、巨大なプロジェクトチームへの参加を依頼してきます。 小野寺は上司の吉村・神山繁の紹介で伊豆に住む令嬢、阿部玲子・いしだあゆみと運命的な出会いを果たします。 日本海溝の調査が本格化してきた最中、東京に大地震が発生します。 これ、ものすごいブームになったんですね。当時の興行配収の新記録だかなんだかで二番館、三番館まで入れて丸々1年くらい公開してたと思います。おまけに、地球規模のボヘミアンになった日本人のその後を描く「続・日本沈没」はスピードポスターまで作られていましたが、今と違って海外ロケがとてつもないコスト高の時代ですから、これは当然、実現しませんでした。 前半のクライマックスはこの東京大地震による首都壊滅です。高層ビルからはガラスのシャワー、顔に刺さって大流血。下町の路地に追い詰められた被災者が翌日には墨のようになって焼死。海抜ゼロメートル地帯は津波に見舞われて全滅。高速道路はバタバタと落下し交通網は遮断され、自衛隊のヘリコプターは消火弾不足で役立たず。 阪神淡路大震災、奥尻島津波被害、三宅島火山を経験した平成の観客にはこの映画の科学的考証に脱帽せざるを得ないでしょう。もちろん、昭和の火薬馬鹿・中野特撮監督による空爆されたんだかなんだかよくわからない災害現場のビジュアルのことではありませんよ、念のため。 いしだあゆみが脱ぐ!という宣伝文句に踊らされた、邪な輩もいたようですが、単なるビキニ姿でした。原作と相違するところは若い二人(藤岡弘といしだあゆみ)よりも政府の高官たちの活躍にポイントが移っているところですね。青春映画の森谷司郎ですが、ここでは師匠の黒澤明のセンで行ったようです。 「問題は君、1億という人間の数だよ!」こんな壮絶な大芝居をまことに素直にヌーボーと演じられるのは丹波哲郎くらいなもんで、こんな人が首相やってっから日本が沈むんだよなー、とか言わないように。この後、大作映画には日本のジョージ・ケネディ(そこにいるだけで頼りになりそうな気がする、っていう役どころ)と呼ばれるほどに(そうでしょうか?)定番出演するようになります。 いざ沈むとなったら世界中から(ただし韓国と北朝鮮は除く、たぶんとばっちりで相当被害が出るからそれどころじゃない、っていうことなんだろうと推察しますが)助けに来てくれるんですが、今の日本ならどうでしょう? 災害スペクタクル映画として歴史に名を残した映画ですが、そういう意味では、この映画、奢れる日本人に警鐘を鳴らす啓蒙映画でもあるわけです。反体制派の橋本忍らしく、政府お抱えのエリート学者めがけて「御用学者!」と罵るところは、薬害問題の惨憺たるありさまを見ている現代の観客にとっては、まことに同感できる台詞でした。 (1996年08月23日) 【追記】 |
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※本文中敬称略 |
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file updated : 2003-08-17