徳川入れ墨師　責め地獄

■公開：1969年
■制作：東映京都、東映（配給）
■監督：石井輝男
■原作：
■脚本：石井輝男、掛礼昌裕
■撮影：わし尾元也
■音楽：八木正生
■美術：雨森義允
■主演：吉田輝雄
■寸評：ハニー・レーヌって実は純国産だって知ってた？

　徳川時代の江戸と長崎を舞台にした豪華絢爛たるエロ映画です。入れ墨の御前試合をめざしてライバル関係にある彫物師の同志の技の競い合い、確執、陰謀、さまざまな物語が入り乱れ、随所にちりばめられた残虐変態シーンがあるときは美しく、あるときはバカバカしく観る者を狼狽させるのです。

　みなしごという身の上で、やっとこさ拾ってもらった売春宿の女将、お竜・藤本三重子がバリバリのレズビアンというめくるめく不幸な境遇の由美・片山由美子は、ある日、弦造・林真一郎に強姦されたのがお竜にばれてしまったので、貞操帯をハメられてしまいます。

　彼女の美肌に惚れこんだ彫り物師、彫秀・吉田輝雄と彫辰・小池朝雄は互いに自慢の入れ墨をほどこし将軍、綱吉・若杉英二が上覧する入れ墨御前試合にいどみますが引き分けてしまいます。

　妊娠してしまった由美は貞操帯の鍵を飲み込んだまま死んだ弦造の墓を掘り返して腹を裂き鍵を取り出して、ほっとしたのもつかの間、ぽっきりと鍵が折れただけでなく役人に捕まって水上で火あぶりにされます。

　お竜からマージンを取って身寄りの無い娘を斡旋してた与力の鮫島・田中春男は、彫秀に殺人の罪を着せて島送りにします。囚人船にはどういうわけかエフェクトのかかったへんてこな声でしゃべる二人の囚人・由利徹、大泉滉がいました、が、そんなことはともかく。極悪な鮫島はレズのお竜が目をつけたおぼこ娘のお鈴・橘ますみをゲットして逃げられないように入れ墨をさせ、これまた人身売買で一儲けしようとしていた領事のクレイトン・ユセフ・ホフマン（オスマン・ユセフ）のところへプレゼントしますが、ショックを受けたお鈴は逃亡します。

　そこへ自分を陥れたのが鮫島だと知った彫秀がジャンバルジャンになって長崎へ降臨。お竜にやとわれてお鈴に入れ墨をした彫辰も長崎に来ていてクレイトン主催の乱交、ならぬ、入れ墨パーティーに参加します。そこへ彫秀が乱入、変態な父親とは似ても似つかぬクレイトンの愛娘、ハニー・ハニー・レーヌの身体に、蛍光塗料を塗ったくったような悪趣味だけど、それなりにアイデアの勝利かも？な入れ墨を無理やり入れて晒し者にします。

　怒り狂ったクレイトンでしたが、そのとき、領事館は炎に包まれていました。入れ墨の素材欲しさに悪の道に走った彫辰は改心してクレイトンを殺します。気付くのが遅すぎますが、ふと我に返って反省した彫秀はハニーにお詫びを言ってから焼け死にました。生き残ったお竜も役人に捕らえられ、上体をまっぷったつに引き裂かれて果てました。

　サイケデリック・アート風の70年代風の彫り物が登場。彫り物っちゅうよりボディペインティングに限りなく近いんですけどね。これを見て「おお！見事だ」って感想を述べてしまう殿様って、何者？

　そしてもう一方は、女性の肌が高揚してきたときに姿が見えるという「白粉彫り」。こういうマニアックな趣向は「様式美の帝王・池広一夫監督」の作品あたりで出てきそうだが石井監督は入れ墨の「重ね彫り」というものすごいテクを見せてくれる。「おしろい色」が浮き出てくるのは理解できるんですが、前の入れ墨が「消える」ってのがスゴいでしょ？。

　女が酒呑んで酔っぱらって肌が赤味を帯びると、今まで見えていた極彩色の入れ墨が消えて、白とピンクのグラデーションによる「観音様」が現れるというウルトラＣ級のアイデアです。

　これが、常識と科学的根拠には無縁の石井輝男マジックです。

　いつもは変態エログロ世界の「良心」と言われる吉田輝雄ですが、この作品ではいくら恋人の復讐のためとは言え何も知らない、ハニー・レーヌ（劇中の役名も"ハニー"というお手軽さ）の体に入れ墨を施しあまつさえ、その親の眼前で素っ裸で踊らせるという変態非道悪役になってしまいます。それもあーた「蛍光彫り」なんですよ。暗くなるとハニーの彫り物だけが光っている、という。う〜ん、ここまでやるか、って感じです。

　ちゃんと悪者は派手にさばかれているので勧善懲悪なドラマだと言えなくもありませんが、結果に至る過程が思いっきりはじけているので、そういう世間の常識は無視しましょう。頭をデフォルトにして、東映エログロ＆バイオレンスの真骨頂をこの作品で堪能しましょう。

（1996年07月26日）

【追記】

※本文中敬称略

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