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蜘蛛男


■公開:1958年
■制作:新東宝、プレミア映画(配給)
■監督:山本弘之
■原作:江戸川乱歩
■脚本:陶山鉄
■撮影:古泉勝男
■音楽:紙恭輔
■美術:島百味
■主演:藤田進
■寸評:スパイダーマンじゃありませんよ。


 もう一人の主役、岡譲司は「柔道一直線」で主人公のライバル赤月旭とかハカイダーの生身・サブローをやった真山譲次のお父さんです。息子さんのほうは役柄がキザでしたが、お父さんのほうは現実に相当エバってた人らしくそれが影響したのか晩年はかなり寂しい人生だったそうです。

 この映画は二部構成です。

 美人姉妹の里見絹枝・八島恵子と里見芳枝・八島恵子(そっくりなので二役、まあなんてお手軽な)が殺されます。警視庁の波越警部・松下猛夫は犯罪学の権威、畔柳博士・岡譲司に犯人をプロファイリングしてもらいます。ところがまたもや事件が発生。今度は美人映画女優の富士洋子・宮城千賀子が撮影中に衆人環視の中、停電の間に誘拐されます。連続誘拐殺人犯は蜘蛛男と呼ばれます。

 警部が名探偵と評判の明智小五郎・藤田進に相談すると、畔柳博士こそが怪しいと断言します。畔柳博士は最愛の妻に裏切られたことから精神が崩壊し、彼女に似た若い女を次々に誘拐して人形に塗りこめて変態ジオラマを製作することに没頭していました。

 探偵と警察に追い詰められた蜘蛛男は一旦身を隠し、ふた目と見られない世にも醜い顔に整形してもらいます。そんなことしたら余計目立つと思うんですがなにせ頭がパニくってますから冷静な判断は駄目で、とうとう女だけでなく世の中の人みんなが憎くなってしまった蜘蛛男は、変態ジオラマを見世物にして見物人を毒ガスで全滅させようという同情の余地の無い計画を立てます。

 そんなん、結局、上手く行くはずがなく見世物小屋の天上へスルスルっと逃げた蜘蛛男はとうとう自分が作ったジオラマのとがった岩の上に落下し串刺しになって死にました。

 後年、テレビ朝日の明智小五郎シリーズ「天国と地獄の美女」は「パノラマ島奇談」が原作で犯人の小池朝雄がやはり岩に刺さって死にましたが、本作品にも「パノラマ島」っぽいジオラマが登場しそこで岡譲司が刺されます。かなりエグイです。

 エグイ、とくれば次はエロです(そうでしょうか?)。一人二人はめんどくせえ、となったのでしょうか?シリアルキラーの犯行が徐々にエスカレートしてくるのが常とは言え、いきなりバレエ学校のピチピチギャルを底引き網漁のようにまとめてヤッてしまおうという犯人の吹っ切れ方が凄いです。原作では当然、全裸にされてしまう被害者ギャルの皆さんですが、ここは70年代の東映じゃないし、監督が石井輝男でもないので、本作品ではセパレートの水着着用です。ガッカリですか?

 ともかく犯人が非常識なくらい活躍するためには誰かがピエロにならないと駄目で、こういうスリラー映画では警察がその役まわりです。本作品ではどこまでも間抜けな警察と狂言回しの二枚目、野崎三郎・舟橋元と冷静沈着な明智小五郎が紙芝居のような薄っぺらなノリとどんくさいテンポで話をどんどん進めていくので、蜘蛛男はやりたい放題です。だいたいその、鈍感男を絵に描いたような藤田進が名探偵だっていくら言われても無理だし、熱血な主人公野郎が舟橋元のようにぽっちゃりしてちゃ台無しですねそもそも。

 気の毒ですが蜘蛛男のキレた熱演が浮きまくるという結果になってしまったのはかなり残念です。うーん、やはり明智小五郎役は知性とハッタリを併せ持った天知(茂)さんみたいなキャラじゃないと。これ、筆者の年代の人はみんな刷り込みですね、デフォルトとして。

 蜘蛛男、こと畔柳博士に扮したのは戦前から松竹の二枚目スターだった岡譲司です。本作品では映画の冒頭から変装しているし、後半は正体を隠すために「世にも醜い顔に整形」してもらったりするので素顔は最後まで全然分かりません。が、この人は他の江戸川乱歩映画では明智小五郎だったりしますが、やはり大向う受けを狙ったような大きな芝居が得意な人なのと顔が濃いせいでしょうか、ちょっとカルトなフィルモグラフィです。ゴリラに変身する「鉄の爪」横溝モノは「毒蛇島奇談 女王蜂」乱歩モノは「蝶々失踪事件」「氷柱の美女」があります。

 端役の刑事さんの中に若き日の天津敏さんがいます。探してみましょうね。

1996年07月19日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-08-17