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大魔神


■公開:1966年
■制作:大映京都、大映(配給)
■監督:安田公義
■原案:
■脚本:吉田哲郎
■撮影:森田富士郎
■音楽:伊福部昭
■美術:内藤昭
■特撮:黒田義之
■主演:高田美和
■寸評:大映特撮映画の白眉。


 「日蓮と蒙古大襲来」(1958年)「釈迦」(1961年)「秦始皇帝」(1962年)、大映特撮映画は精巧なミニチュアワークとモンスターパニック映画を主軸とする東宝特撮映画とは違って、大地震や暴風雨といった自然災害や天変地異に翻弄される人物をミニアチュア撮影とカットバックで見せるという手法を用いました。後に再々カムバックを果たした平成の「ガメラ」映画にも継承されている、つまり「人の目線」に立った特撮なんですね。

 圧政に苦しむユダヤ人が泥で作った守護神に悪魔が魂を吹き込んだのがゴーレムですが、この大魔神も誰が作ったのかは定かではありませんが、埴輪そっくりのかわいい顔した泥人形です。しかも巨大。

 気の荒い神様アラカツマは山の武神像によって封じ込められているという言い伝えがありました。魔神封じのお祭りの夜、花房の領主・島田竜三は家老の左馬之助・五味龍太郎と軍十郎・遠藤辰雄の謀反により殺されます。忠臣、小源太・藤巻潤によって助け出された若君・二宮秀樹と姫は、武神の巫女をしている信夫・月宮於登女(乙女)に匿われて成長します。

 左馬之助は外見通りの暴君で、前領主の落人狩りをしたり城の増強工事を理由に領民には重税を課し、払えない者は奴隷のように工事現場でこき使います。父親の茂助・木村玄をたずねて来た、「未来少年コナン」に出てくるジムシーそっくりな少年、竹坊・出口静宏は現場監督にとっとと追い払われてしまい、途方にくれて魔神の山へ父親の救出と病気の母親を助けてくれるように頼みに行きます。

 小源太が軍十郎に捕まり、助けようとした忠文を捕らえられます。竹坊は魔神の山で忠文の妹、小笹・高田美和と知り合います。左馬之助の横暴をたしなめようとした信夫を返り討ちにされました。左馬之助はついでに信夫が守っていた巨大な泥製の武神像もぶっ壊すことにしました。止めようとした小笹と竹坊の目前で突如、武神像はそれまでの優しい埴輪顔から、元横浜ベイスターズの佐々木投手にそっくりな顔に変身してムクムク歩き出し、大魔神・橋本力になり、破壊工作隊の一行をなぎ払います。

 大魔神はえっちらおっちら山を下り、磔になっていた忠文と小源太を乱暴に助けます。そして手当たり次第に城だのなんだのをぶっ壊し、捕獲した左馬之助を腰の剣で刺し殺します。それでも怒りが収まらない様子の大魔神はずんずん歩いて村人を踏み殺したり投げ捨てたりします。忠文の制止も振りほどいた大魔神でしたが小笹が体を張って竹坊を助けようとしたのでちょっとクールダウン、さらに小笹が流した涙に感動し、元の優しい埴輪顔になったかと思うと、その魂だけが山へ戻り、武神像は土くれになってしまいました。

 ほぼ原寸大の魔神像、着ぐるみ、手や足のパーツ、人形など綿密な計算に基づくスケール感が見るほうを幻想的な世界へ迷い込ませます。すばらしいのはその重量感で、「ゴジラ」第一作に見られる、ゆっくりとした動きと地響きがパニックを誘うのです。人が見上げたその目の先におそろしい大魔神の顔があり、次のカットで巨大な手につかみ上げられもがく姿、そして着ぐるみの大魔神の手に中に人形がいる、と、左馬之助の断末魔にこれだけの手間ひまがかけられているのですから、なんてゴージャスな映画なんでしょうか。

 ただでさえ時代劇は金かかるのに、さらに特撮までやっちゃうなんて。製作準備から完成まで5年かかっただけのことはあります。

 この映画の魅力は森田富士郎のカメラによるところが大です。同氏によると他社の作品を見ていて特撮と本編とのトーンの遊離を痛感されたそうで、まず画調の統一を実現したいと、普通なら二から三班の構成になるところをすべて自分で撮影監督を担当。そこで用いたのが空気層を演出するためのフォグマシーン、これを同氏はパラフィンやはったい粉を吹きつけるという手法を考案し、本作品(およびシリーズ全作品)を撮影。また、日本の風土や気候を意識して晴天よりも曇天をチョイス。こうして独特の格調と実在感のある大魔神は生まれました。

 特撮映画を見る楽しみのひとつは、こうした製作者の創意工夫の妙に触れる醍醐味というのがあるわけで、金をかけなくてもいい映画はできる、っていうのは絶対に間違ってるんです。こういう職人の丁寧仕事の部分が必ず欠けてしまうから。お金をかけたからと言って良い映画ができるとは限らない、は真実なんですけどね。

 大魔神の着ぐるみに入ったのはそこだけ生身が見られる目線が強烈な、橋本力で、本編では顔も出てます。橋本力は運動神経のよさをかわれて香港映画「ドラゴン怒りの鉄拳」でブルース・リーと共演を果たし、俳優を引退した後はアマチュア野球チームの監督をやってました。メジャーリーグで活躍する佐々木投手の姿を見て「あんな頼もしい姿でマウンドに立っていると本当に大魔神だなあと思います」とインタヴューに答えています。自分の役を大切に思っている俳優さんっていいですよね、なんか、見てるほうも大事にされているような気がしてうれしいものです。ちなみに、本作品のほかに「妖怪大戦争」でも妖怪ダイモンの中に入ってました。

 迫力ある巫女の信夫を演じた月宮於登女は戦前からの女優で本作品出演後、引退しました。

1996年08月03日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-08-17