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獣たちの熱い眠り


■公開:1981年
■制作:東映、徳間文庫、東映(配給)
■監督:村川透
■助監:
■脚本:永原秀一
■原作:勝目梓
■撮影:仙元誠三
■音楽:速水清司
■美術:今村力
■主演:三浦友和
■寸評:マシュマロ野郎にアクション映画は似合わない、三浦友和の「冬の時代」。


 三浦友和はかつて、アラン・ドロン(60〜80年代前半までブイブイ言わせていたフランスの二枚目俳優、J・フィリップの後継者と言われた)と同じくらいの二枚目アイドル型俳優でした。今ではアブナイ中年男なんかがマッチするそれなりの俳優になり名を遂げましたが、本作品はそうした過渡期に位置するのだと思ってください。

 つまり、それくらい中途半端でダサいんです、この人のすべてが。

 花形プロテニスプレイヤー、三村浩司・三浦友和は親友の実業家、中田明夫・宮内洋が片棒担いだ美人局にひっかかり、スキャンダル写真を撮られて恐喝されます。

 三村は金の支払いを拒否したために、殺人犯に仕立てられるわ、妹・なつきれいは悪徳刑事の丸山・中尾彬に犯されてクルクルパーにさせられるわ、散々な目に遭ってしまいます。当然、プロテニス業界からはオミットされ、職を奪われて孤立無縁になった三村は単身、恐喝組織に挑戦します。とうとう突き止めたのはさる、大物政治家、黒柳健策・中丸忠雄の秘書、野々山・成田三樹夫の存在でした。

 さて、この映画の見所は主人公を恐喝しに来る、岸井節男・石橋蓮司です。卑屈で慇懃な態度で友和にまとわりつき金を要求しつづけます。第一回目の恐喝のときに手足を三村にヘシ折られてしまい以降は痛々しいギブス姿で登場するんですが、全然ひるみません。

 殴られても蹴られても泣きながら追ってくる、ある意味、最強の悪役です。ビッコの殺し屋と言えば「蘇る金狼」の岸田森さんがいますが、ヴァイタリティーと生活感において石橋蓮司のソレは圧倒的に恐いです。ま、両者とも「頭部が寂しい」という男の劣等感も相俟っているのでそうした点では仲間と言えないこともありませんね。

 逆襲に出た三村が野々山を逆恐喝して金を奪いに来るシーンで、三村を助ける用心棒の深町・伊吹吾郎に拳銃を突きつけられたとき岸井は「やめてください!今年は国際障害者年ですよ!」と風変わりな命乞いをしますが、わりとあっさり射殺されます。これも「蘇る金狼」の冒頭、「女房子供はいるか」と松田優作に問われて「(女房も子供も)いっぱいいる」と答え陽気に射殺される今井健二を思い出しますね。

 こういうのを「リフレインの美学」とでも言うんですかね?

 三村の元彼女で、今は組織の囲われ女になっている清水孝子・風吹じゅんは村川監督のお気に入りです。三村のシスターコンプレックスに我慢ならなくなって彼の元を去ったという設定なので、その妹が犯されて発狂しても全然平気でしたが三村は好きだったので彼をかばって死んでしまいます。

 美人局の仕掛け人、マダム、鳥飼陽子・宇佐美恵子と三村とのベッドシーンなあいかわらずこの監督らしいハードなもので、女性週刊誌のインタビューに答えた宇佐美恵子は「三浦さんに乳首をつかまれたとき思わず興奮してしまいました」とサービス万点のコメントをしています。

 ですが、元爽やか系の二枚目、三浦友和がハードだったのはベッドの上だけで、それ以外は全然甘ったるくて、かったるくて、暑苦しくて、見苦しいだけのマシュマロ野郎ででした。あんなフックリしたほっぺたにはハードボイルド演る資格なんかないです、と断言いたしましょう。

 たとえば「悲しきヒットマン」でも、所詮デブには哀愁も男の美学も感じ取れないので、いくら血ぃ吐いてもヤセのそれは喀血で美しい鮮血ですが、デブのそれは吐血なのでどす黒くてベトベトしてそうでなんかヤです。たまねぎ喰え!って感じですね。

 「主役を食ってやろうという人を集めました」というプロデューサの言葉は嘘ではありませんでしたが、本当に食っちゃっちゃあ不味いんですよ。凝ったセットやヘヴィな役者をそろえて各々に見せ場を用意し、クルーザー対自動車の壮絶「川下りチェイス」を演出した村川透監督でしたが、そのスタイリッシュな画面にあの「ふくよかな頬」が登場するだけで一気にぶち壊しになる脱力感。それが本作品の最大にして最悪の持ち味でした。

 だからこそ「台風クラブ」で一転、性格の悪いダメ中年になった三浦友和の英断には敬意を表したいんですよ。なかなかいませんでしょ?中年過ぎた二枚目が悪役に転じないで新たな価値を市場にアピールするというのは。

1996年08月23日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-08-17