国際秘密警察 虎の牙 |
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■公開:1964年 |
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「虎の牙」と言うタイトルの映画は松竹(大船)が1951年に瑞穂春海・監督、上原謙・主演で映画化してますが、あっちの原作はモーリス・ルブラン原作の怪盗ルパンシリーズです。そう言えば東宝は「奇岩城」とよく似たタイトルの「奇巌城の冒険」っていう映画も作ってるんですが中身全然違います。 本作品は安藤日出男のオリジナルです、念のため。それとこの作品は007のぱちもんみたいに言われますが福田純監督によれば「純粋なアクションスパイもの」として考えていらしたそうで、あまり本家は意識してなかったみたいですね。秘密兵器がてんこもりでやたらとボンドガールがエロい「国際秘密警察・火薬の樽」や「国際秘密警察・鍵の鍵」とかはまだしも、確かにこれが007のリスペクトですって言われてもなあという気もしますが。 東南アジアの架空の国アラバンダ共和国。国際秘密警察の捜査官、北見次郎・三橋達也は身分を隠し、首相官邸で産業大臣、クリマ・中丸忠雄に面会していました。そこへゲリラが乱入し首相は惨殺されてしまいます。首相代行におさまったクリマは建設機械発注のため日本へ行くのでした。 クリマの女性秘書は日本人の明石梨江・白川由美。彼女とともに日本へクリマを追った北見。実はクリマこそがゲリラの首領であり毒ガス兵器を開発して国家転覆を計画していたのでした。 クリマは実は日本人(本名が栗本慎一!ハゲてません)。太平洋戦争中、陸軍中野学校でスパイとして養成されました。彼は戦争によって人間性を破壊され戦乱の中でしか自分の生きがいを見つけられなくなっていた、いわゆる戦争キチガイってやつですね。で、北見次郎も中野学校の卒業生だったんですが、彼はクリマとは逆に平和の尊さを知りそれを守ることを使命とする職業についたのでした。 この二人が背負っている過去がお互いの告白で鮮明になるクライマックス。北見とクリマの壮絶な殴りあいは駆けつけた警官隊にクリマが射殺されて幕を閉じます。人間兵器として「闘う」ことでしか生きられなかったクリマの死に北見は憐憫の情をもよおすのでした。 インドネシア独立のために闘った日本人たちにアイデアを求めた映画です。 007の第一作「ドクターノオ」の直後に電光石火で制作されたシリーズ「国際秘密警察」シリーズ。この第二作目の見所はなんといっても善玉・三橋達也と悪玉・中丸忠雄の対決です。 三橋達也は当時40歳。なかなか元気にアクションをこなしますが終盤のクリマとのタイマンはさすがに半分以上が吹き替えです。対する中丸忠雄はとても30歳になったばかりとは思えないような貫祿十分の「押し出し」でスター三橋と渡り合います。 「童顔」タイプの典型的なベビーフェイスである三橋達也よりも実際には10歳も年少なのに「先輩」という設定を与えられた中丸忠雄はちょっと気の毒、やはりルックスでしょうかね。中丸忠雄はデビューしてからずっと実年齢より4、5歳上の役をやってたので「若く見られちゃいけない」と一生懸命低い声を出していたらいつのまにか「中丸節」と呼ばれるほどの渋い声になってしまったんだそうです。男は老けて見られたほうがいいとか、しかし限度ってもんが、、、。 クリマの忠実な部下のサバトを演じるのは黒部進です。なんという濃い親分子分でしょう。ドーラン塗まくりで中近東フェイスが決まってるんですけど、たどたどしい英語もききものですね。たださえ台詞へたくそだから丁度よかったということですが。 シリアス路線とは言え、それなり(?)に爆笑シーンはあります。北見に追跡されたクリマの車(早口じゃないんです)が道路に撒くのが「まきびし」ってのが日本風です、ていうか笑えます。そのほかに北見の正体を探るためにレントゲン写真で骨格が一致するかどうか真剣に調査しているクリマとサバトも馬鹿馬鹿しくて素敵です。もうちっとマシな手段がありそうなものですが、筆者は中丸忠雄の悪口は絶対に言わないので許します。 冒頭、三橋達也と中丸忠雄が英語の台詞を延々と喋ります。このシリーズには悪玉は「外人」(または外資系の犯罪組織)というお約束があるので。第一作のジェリー伊藤、第三作のハロルドコンウエイ。中丸忠雄は二〜四作まで連投、当然ぜーんぶ色敵。現代映画を得意としていた東宝の男優にはバタ臭い顔だちの人が多かったし、とりわけこの映画の中丸忠雄と黒部進は国籍不明顔だったんで、こういう企画の映画がすんなり制作できたんでしょうね。経営資源をよく生かした作品ですね。 東宝のスパイアクションのシリーズものでしたが本作以降はシリアス路線を捨てて、ギャク街道を突っ走ることになります。そしてその地平線の彼方には、あの名作「100発100中シリーズ」があるのです。 (1996年07月05日) 【追記】 |
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※本文中敬称略 |
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file updated : 2003-08-17