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残酷・異常・虐待物語・元禄女系図


■公開:1969年
■制作:東映京都、東映(配給)
■監督:石井輝男
■脚本:石井輝男、掛札昌裕
■原作:
■撮影:吉田貞次
■音楽:八木正生
■美術:鈴木孝俊
■主演:吉田輝雄
■寸評:石井輝男と土方巽、奇跡の出会いはこの作品から。


 タイトルバックで踊る土方巽と異形の者達、女囚の串刺し刑、映写技師がロールの順番間違えたんじゃないのか?っつうくらいイキナリ度が高いオープニングです。時代は元禄。エピソードは3つに大別されそれぞれに行き場のない女達に対する残虐シーンがこれでもかとばかりに連発されます。

 第一話。遊び人にだまされて女郎屋に売り飛ばされてもなお、忘れられずに脱走し拷問された挙句にはらんだ子供を僕殺される遊女の話。

 第二話。醜男に犯されたために浮浪者や黒人(南洋の土人ルック、鼻ピアスあり)や小人との異常セックスに明け暮れていた大店の娘に惚れてしまった忠義な使用人の悲劇。

 最後は残虐趣味の殿様の愛妾が犬(ちん)との情事に耽っていたのが殿様にバレて金粉ぬられて窒息責めにあい、逆襲に出た愛妾が、殿様の子供を宿した女が実は殿様の娘だったという仰天事実を暴露し、お城ともども焼け死ぬ話。

 サブタイトルが「残酷・異常・虐待」ってんですから、分かりやすくていいですよね、気取ったタイトルなんかよりかは。て言うか付けられないでしょうけどね、オシャレなタイトルは。

 拷問、異常性愛、獣姦、金粉ショー、帝王切開、逆さ吊り、等など字面だけ追っていくととんでもない映画のようですけど、そのとおりなんですねー。豪華なセット、きらびやかな衣装と個性派俳優の熱演を得て、大まじめに展開する変態映画なんです。

 なぜかやたらと明るいんですけどね。こう、はじけちゃってるんですよね。

 たいまつをくくりつけた牛の群に緋襦袢姿の腰元達を突き殺させる残虐ショーを開催して喜んでいる殿様の小池朝雄(ノリノリ!)や、裸の遊女達に騎馬戦をやらせる御大尽の上田吉二郎めがけて「このド変態野郎!」と、声のひとつもかけてあげたくなるほどです。裸騎馬戦の遊女の脇の下が「ぼうぼう」であるという正確な時代考証に基づくきめ細かな演出にも拍手しましょう。

 冒頭、土方とダンスする一団の中に犬(本物)がいます。イカレタ人間達の薄気味の悪いパフォーマンスを目のあたりにして「困ったなあ」という顔をしている「彼」がとてもかわいいんですよ。金粉窒息責めのシーンでも小犬が巻添えになります。とはいっても愛妾が悶えた拍子に側にいた小犬の毛に金色塗料がベタっとついてしまうだけですけど。ここでも「どうしたもんかなあ」と不安気な犬の方についつい目が行ってしまいます。

 画面でまともなのがその犬だけって感じで、出てくる人間、みなアタマおかしいんじゃないの?ってことなんで。

 小犬とのセックス、なんていうとスゴそうでしょ?でもそんなことは全然ないですよ。賀川雪江が演じるお色気ムンムンの側室のまくらべで小犬がウロウロするだけです。それだけで逆上してしまう小池朝雄って一体?そういうごく普通のなんでもない場面ですら「変態」っぽい想像力をかきたててしまうってところがこの映画のガッツなんですよね。

 3話のオムニバスに狂言回しとして登場する医師・吉田輝雄。妊娠した女の腹を裂いて血まみれの赤ん坊を抱えて立つ姿は、妙に真面目で素直なだけにどうしてもヘンです。変態づくしの登場人物の中では唯一醒めた人物だと安心していたんですけどやっぱり、こいつも、と。

 人間達は一人残らず薄気味悪いですが犬は可愛いです。それは、石井輝男監督が大の犬好きだからなのでした。

1996年07月19日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-08-17