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君よ憤怒の河を渉れ


■公開:1976年
■制作:永田プロ、大映映画、松竹(配給)
■監督:佐藤純弥
■脚本:田坂啓、佐藤純弥
■原作:西村寿行
■撮影:小林節雄
■音楽:青山八郎
■美術:今井高司、間野重雄
■主演:高倉健
■寸評:高倉健が嘔吐し、馬が新宿を走り、岡田英次が投身自殺する。


 現職検事であった高倉健は無実の罪を着せられて逃亡。健さんの上司である池部良は健さんの無実をこれっぽっちも信用しようとせず、検察の体面だけを重んじて刑事の原田芳雄に全力を上げて捜索するように依頼します。

 その頃、健さんは自分を強盗犯だと証言した女を探しに北海道へ。しかし女はすでに殺されていました。殺人犯に仕立てられた健さんは日高の山奥でクマに襲われていた地元の有力者・大滝秀治の娘・中野良子を助けます。

 大滝の協力を得て生まれて始めてセスナを運転する健さん。それを追って自衛隊がスクランブルをかける(オイオイそこまでするのか?)。健さんは見えない敵がとてつもない大物であることを知るのでありました。

 途中、立川で売春婦の倍賞美津子に助けられたりしながら健さんは東京にたどり着きます。やっと突き止めた犯人は人間が「ロボットになってしまう薬」を悪徳精神科医の岡田英次に開発させてライバルを抹殺していた大物政治家・西村晃でした。執念で追い詰めた健さんは原田の眼前で西村を射殺します。

 中野良子は高倉健を慕って東京にやって来ます。彼女は警察に包囲された健さんを救おうと(わざわざ)父親の経営する牧場のサラブレッドの一群で新宿の街を疾走するという豪快な捜査撹乱作戦を実行。

 お嬢様によって慣れないアスファルトの上を走らされた馬達の一頭が蹄鉄から火花を散らして派手に転倒。馬上からの撮影を含めそこだけはすごい迫力。人目につかないようにあんな繁華街のまん真ん中まで馬運車(馬を運ぶトラックのこと)で乗り付けるってのがすごいですねえ。でも馬がかわいそうだからああいう危ないシーンはやめなさいね。

 前半、中野が熊に襲われて樹の上に逃げるというシーンで熊は着ぐるみなんですけど、これがなんというかものすごい間抜けな造作なんで笑っちゃいます。

 中野良子が登った樹をバシバシ叩く様はお相撲さんの「テッポウ」の稽古みたいで緊迫感ゼロだし。叩く度に熊の頭部がズルズル左右にずれるのも悲しすぎます。あまりにチープなこの一連のシーンを見て「どっきりカメラ」の定番トラップ「熊がでたあ!」を思い出したのは私だけ?この「森の熊さん」(ってそんなかわいらしくはないですけど)は結構執念深くて、刑事の原田芳雄を腹いせに襲ったりするんです。

 岡田英次は秘薬の開発中に人体実験を繰り返しさんざん失敗しまくっていたんですね、そういう人に、そんな難しい薬の開発を任せておくほうが悪いですね。ほんで、その証拠を握るために病院に潜入した健さんも「人間をロボットにする薬」を飲まされそうになります。そこで健さんは「パッパラパーになったふり」をして、助手(阿藤海、他)の目を盗んで薬をゲーゲー戻します。1回、2回、洋式便座に顔をつっこんで吐きまくります。そして3回目、健さんの口から噴き出す液体がビチャビチャと音をたてるに至っては「もらいゲロ寸前」になる迫力です。吐き終わった後なんと涙目になっている健さんはスゴすぎです。

 映画そのものはけっこう面白かったんですけどあの劇伴はちょっと意味不明ですね。「ルシアンの青春」に出てくるような、妙に明るくて軽いノリでね。ラストの「ラーラララ〜」というのは「七人の刑事」っぽかったかとは思いますが。

 西村に殺されるライバル代議士が神田隆。悪徳政治家といえばコノ人をおいて他にはいないですねえ。「大魔神」に船上で磔にされたうえに火あぶりにされたり「妖怪大戦争」じゃあ怪物に体をインベイドされて吸血鬼になりますし、なんかここまでくると気の毒になっちゃいますね。

 とっかかりの仕掛けが大がかりだった割には尻すぼみですね、この映画。中野良子のタカビーはこの後「野性の証明」でさらなる大炸裂するので、こんな馬鹿女ほっとけよ、健さん!あのとき「クマに食われてりゃ良かったのになあ」と思うんですよね、つくづく。

1996年06月03日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-08-17