歌麿 夢と知りせば |
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■公開:1977年 |
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深夜、桧前屋の主人・玉川伊佐男が下女・太田美緒と乳繰り合っていた間に小堀遠州の逸品で献上品の茶碗が盗まれます。犯人は怪盗、夢の浮橋・平幹二郎。役人に追われた浮橋は、狂歌仲間の蔦屋重三郎・成田三樹夫、志水燕十・中丸忠雄、風来山人こと平賀源内・内田良平、老中である田沼意次・岡田英次、歌磨・岸田森が遊んでいた料理茶屋に逃げ込みます。歌麿たちは浮橋を押入れに隠して逃がしてやります。 浅草の賑わいの中で女スリのお涼・緑魔子が盗んだ財布を懐に押しこまれて犯人の一味と疑われた歌麿はちょうど通りかかった人気役者の市川団鶴・平幹二朗に救われます。 蔦屋から「女が画けない」ことを指摘されてスランプに陥った歌麿を応援するために燕十と源内は女郎屋の屋根裏からノゾキをして勉強させようとしましたが、ひょんなことから人気太夫の朱雀・中川梨絵と田沼のライヴァル、赤石丹後守・東野英心の寝床を覗いてしまった歌麿は、用心棒の嶺山月・山城新伍に斬られそうになるが、そこへ浮橋が登場して助けてくれたのでした。 源内は歌麿に、大奥の女、沢乃井・渡辺とく子が団鶴の愛を得ようとして巫女・長嶺ヤス子の祈祷で淫らにあえぐところを見学させます。歌麿は妻のお奈津・三田和代を、街で拾った乞食に強姦させてその姿を写し取り美人画に目覚めます。やがてお奈津は歌麿の前から姿を消しました。写楽の人物画を見てショックを受けた歌麿は旅先で、葛飾北斎・菅貫太郎と出会います。写楽の正体は北斎だったのでした。歌麿は旅の途中で偶然、お奈津と再会しますが、彼女はすでに世を捨てて生きていました。 江戸に戻った歌麿は美人画で人気を得ますが、やがて田沼意次が失脚し、後任の松平定信・仲谷昇によって文化芸術は人心を惑わす贅沢華美ないかがわしいものとして弾圧されます。蔦屋は家財を没収され、燕十と歌麿は投獄されてしまい、団鶴の芝居小屋も閉鎖された。 買い占めた材木の値段の高騰を狙った桧前屋が江戸に火を放ちます。嶺山月と団鶴は斬りあって死にます。釈放された歌麿はかつて憧れた高貴な女、お千佳・岸田今日子の後を追って雑踏の中に消えて行きました。 ロウソク一本の微弱な照明でもしっかり映るという撮影が見所だったらしく、随所に例の、おなじみの暗い画面がこれでもかと登場します、さすが実相寺。あいかわらず濃いテーマ主義とデカダーンな趣味が炸裂してます。 しかしなんですね、言っちゃあなんですけどよくもまあ若死にした俳優ばっか集めたもんですねえ、とは言うものの、この頃はみんな生きていたわけですけどね。およそ主役張ったことがある俳優がほとんどいないというのも実相寺ワールドらしいところですが。岸田森:1982年(43歳)、菅貫太郎:1994年(60歳)、内田良平:1984年(53歳)、成田三樹夫:1990年(55歳)還暦前ですもんねーみんな、合掌。 2時間以上の大作ですが、めくるめくエロスと狂喜と悪趣味とで全く飽きさせない展開です。特に女優さんはシンドイ場面がいっぱいあったので本当にご苦労様と言いたいですね。ま、実相寺監督ってば、あの可憐な桜井浩子さんを縛ったり木に吊るしたり埋めたり、ってまるで石井輝男監督みたいな人ですからしゃーないですが。 そんなふうに暴力的なビジュアルセンスで役者をこき使おうとする演出に対してプログラムピクチュアのスタアシステムがかまぼこのように板についている山城新伍の存在感だけは、もしかしてネタなのかと疑いたくなるくらい違和感があって浮いてました。だいたいその、新劇出身(成田三樹夫は俳優座養成所出身、寺田濃は文学座養成所出身、念のため)で固めたこのキャストに商業映画の香りはミスマッチに過ぎますよね。 そのわりには中丸忠雄はすんなり入ってますが、やっぱスタアシステムに乗ったことない人には色がついてないですからね、顔は個性的ですけどね。 はっ!そう言えばこの映画には「実相寺あるところに清水あり」の清水宏(正しくは糸へんに宏っぽい字、文句はウイリアム・ゲイツへ)治がいない!って驚くほどのことでは、、、でも気になりますネエ。やっぱ寺田濃とキャラがカブるためですかね?ちょっと寂しいですね(か?)。 山田五十鈴の娘で、恋人(森美樹)の事故死、神経症、度重なる失踪などとスキャンダラスな生涯を送った嵯峨三智子。「まらそん侍」で見せた健康的なお色気がすっかり変貌していたが彼女がスクリーンに姿を見せたのは本作品が最後になりました。 (1996年07月12日) 【追記】 |
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※本文中敬称略 |
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file updated : 2003-08-17