「日本映画の感想文」のトップページへ

「サイトマップ」へ


安寿と厨子王丸(アニメ)


■公開:1961年
■制作:東映動画
■監督:藪下泰司、芹沢有吾
■脚本:田中澄江
■原作:森鴎外
■撮影:大塚新吉
■音楽:鏑木創、木下忠司
■美術:鳥居塚誠一
■主演:佐久間良子
■寸評:本編開始前に大川社長(当時)の挨拶あり。


 当時の東映は時代劇一色。したがってアニメーションとは言え声優陣の豪華さや演出の手堅さは目を見張るほどで、たかがお子様向けのアニメなどとは努々片付けられないシロモノですね。

 安寿・佐久間良子、厨子王丸・北大路欣也(成長した後)、母・山田五十鈴、山椒太夫の息子でいじわる兄貴・平幹二郎。さらに子供時代の厨子王丸・住田知仁は現在の風間杜夫です。この作品はディズニーの制作方法に学び、まず声を担当した俳優が実演しそれを元に原画を作成しました。山田五十鈴と北大路欣也の実演を「下敷き」にするとは、、なんかモッタイナイ気がしませんか。見たいですよねえ、実写の方。

 日本画を思わせる登場人物のデザインと色彩が気品に溢れていて大変に美しいです。人買いにだまされて小舟が離れ離れになるシーンで、母親の船に乗っていた女中が抵抗して海に蹴落とされます。たぶん溺死しちゃうんですが、ここがアニメーションの良いところで、主家の家族を案じた彼女は人魚に変身します。

 山椒太夫・東野英治郎の荘園でこき使われた安寿が海に柄杓を流して困っていると件の人魚が現われて柄杓を浜へ打ち返してくれます。人魚の顔に見覚えがあった安寿が、はっとして名前を呼んだときの人魚の瞳が切なくていいですねえ、泣いてしまいました。忠義だった彼女の死を確認した安寿は悲壮な決意を固めるんです。

 物語は原作に忠実に安寿の入水自殺のシーンになります。子供向けのアニメーションにしては重いシーンだがここも上手く見せています。静寂に包まれた湖の周囲に立ちこめる霧、安寿の幼い後ろ姿が煙のようにかき消えた後にきちんとそろえられた草履、と、次の瞬間、水面から一羽の白鳥が飛翔します。山路を逃げる厨子王丸を見守るように頭上を飛んでいく白鳥。弟の身を案じたやさしい安寿を神様が白鳥に変化させてくれたのだという「救い」の演出ですね。たしか死んで白鳥になるのはヤマトタケルだったと思いますが、上手いこと使いましたね。

 今見るとちょっと笑えるのは、かわいそうな安寿の佐久間良子(声だけ)を苛めるイジワル息子の平幹二郎(こっちも声だけ)。もちろん当時は結婚してないんですけど、とんだところで夫婦共演(後、離婚)だな、と大人の観客(私)は余計なことを考えて勝手に喜んでます。

 悲惨なテーマの原作を随所に童話的なシーンを盛り込むことでファンタジックに仕上げた、大人の鑑賞に耐えうる(なんか嫌な言葉だけど、他に適切な言葉が無いので)アニメーション。もちろん流血、残酷描写一切なしです。こういうアニメ、本当に好きです。

1996年08月22日

【追記】

※本文中敬称略


このページのてっぺんへ

■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-08-17