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ハワイ、マレー沖海戦


■公開:1942年
■制作:東宝
■監督:山本嘉次郎
■脚本:山本嘉次郎、山崎謙太
■原作:
■撮影:三村明、三浦光雄
■音楽:鈴木静一
■美術:松山宗 渡辺武 北猛夫
■特殊技術:円谷英二
■主演:大河内伝次郎
■寸評:開戦一周年記念映画はまだ元気がよろしい


 本作品は「当時の日本国民は全員見た映画」なのに、なぜマイナー作品なのか?と聞かれたことがあります。え?日本人が全員観た映画、そんな映画あるの?現に、うちの父親は当時すでに大人でしたけど「あったのは知ってる、でも見てない」って言ってました。本かなんかで読んだんでしょうけど普通の人は裏取らないから信じちゃうんですよね、そういう風説を。けどうちのお父さんですら「知ってた」ってことは重要ですよ。つまり、当時は国をあげて「こういう映画があるから見れ!」という宣伝がなされた、ということですね。

 太平洋戦争開戦1周年を記念して制作された戦意高揚映画。ひとりの少年兵が予科練での厳しい訓練に耐え、真珠湾奇襲作戦に参加しマレー半島沖海戦で華々しい戦果を上げるまでを描きます。

 軍部の胆入で制作された映画、つまり宣伝映画ですし当時はまだ日本軍が右肩上がりの活躍をしていた頃なので大変勇ましいです。ですが、勝ってても負けてても戦争であることには変わりなく、非常時に翻弄される個人の生活を、山本嘉次郎監督らしい細やかな人情の機微といったものがちゃんと盛り込まれています。

 戦意高揚映画といいながら実際は、かなりほのぼのとしている映画です。主人公の少年兵がある日、夢を見るんです。故郷の家で姉・原節子や妹らがにこやかに彼の帰郷を出迎えます。だが母親だけは仏壇に手を合わせこちらを向いてくれないんですね。朝起きると、主人公はちょっと寂しい気持ちになります。

 出撃前に帰郷した彼が従兄から「兵士としての覚悟」を説教されます。分隊に戻る日、姉がぼたもちをお土産につつんでくれます。甘いものが貴重だった時代ですから、それこそ子供の夢なんですね。つまり、夢で見た通りのシーンが現実に展開するんです。母は見送らないんですね。なぜ?と姉に問うと「もうお国に差し上げた子だから」と母が常々、口にしていたことを聞かされます。「母の覚悟」の立派さに胸を打たれて少年兵は部隊に戻ります。

 なにせリアルタイムで進行しつつある戦争を描いているのでどこまでが「ホンモノ」で、どこからが「演出」なのか区別がつきません。戦後生まれの私にはまるで見破れません。にしても見破ったってどうよ?って感じですが。

 予科練の訓練シーンは本物らしく迫力あります。そして目玉は真珠湾奇襲シーンの特撮。これは実写は無理ですからね。

 雲海を飛行するゼロ戦(これは本物)、雲のすき間から覗くパールハーバーのセット。白波と砂浜、戦艦、点在する兵舎などの建造物。レーダーをかいくぐって山肌スレスレに飛行するゼロ戦(ミニチュア)。実物はもちろん見たことないですけどなんか、スケール感といいスピード感と言い「これって本物?」と思うくらい、フィルムのしょぼさも相俟って、現実っぽくて素晴らしいなと思います。

 円谷英二監督の特撮技術の原点なんですね、この作品は。とにかく飛んでいるゼロ戦が本物なのかミニチュアなのかさっぱりわかんない、本物見てないからさらに本物っぽいってわけで。湾の戦鑑に爆弾が命中し水飛沫を上げます。やがて火災が発生しゆっくりと巨体が水中に没していくんです。途中、被弾した日本軍のゼロ戦が友軍機に手を降りながら地上の格納子へ体当りして爆発します。当時から「こういうの」を奨励してたんだなあ、って余計な知恵がついてますからそっちに気が行っちゃいますが、ここもミニアチュアとわかってても迫力ありますね。

 マレー半島沖の海戦シーンは空母との戦いになります。戦闘機同士の空中戦、これもお見事です、特撮が。こういう映画を褒めるとやれ戦争賛美とか、右翼的とか騒ぐ人もいるんだろうが私には当時の「モラル」が疑似体験できて面白かったし、特撮技術の見事さに感激しきりでした。

 単純なアジ映画だと思って食わず嫌いはソンすると思いますよ。

1996年08月17日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-08-17