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けものみち


■公開:1965年
■制作:東宝
■製作:藤本真澄、金子正且
■監督:須川栄三
■脚本:須川栄三、白坂依志夫
■原作:松本清張
■撮影:福田康道
■音楽:武満徹
■美術:村木与四郎
■主演:池内淳子
■寸評:池部良が全共闘の闘士くずれの悪役を演る映画


 池部良って学生運動とかそういう思想的なものから一番遠いイメージだと思うんだけど、どう?

 須川栄三は元々シナリオライターですから松本清張の緻密な原作は、色恋沙汰や役者に見せ場を与える大向うウケを狙ったような大仰なシーンを極力排した丹念な話の運び方と画作りによくマッチしてたと思われます。 

 筆者は池部良の本格的な(でもないけど)敵役、というのを初めて見たような気がします。三十路すぎても高校生しちゃう池部さんに「元アカ」という役どころをやらせようとした人は相当な冒険家。

 寝たきりの夫、寛次・森塚敏のために旅館の仲居をしていた民子・池内淳子はホテルマンの小滝・池部良に誘われるまま事故死を装い夫を焼殺、そのバーターとして政界の黒幕で不能の老人、鬼頭洪太・小沢栄太郎の愛妾になることを承諾します。贅沢な暮らしをエンジョイしつつも性欲だけは満たされなかった民子は小滝のことが忘れられなくなります。

 若い肉体を武器になりあがった育ちの悪い女がライバル・大塚道子をおしのけてナンバーワンの座についたことから自分に実力があると勘違いしてしまい、裏の社会からまるで虫けらのように消されるドラマです。

 主演の池内淳子は新東宝時代に主演した「花嫁吸血魔」で受けた屈辱を未だに忘れられないという洒落の通じない女優さんですが、後年のホームドラマの高視聴率女優とは思えないドロドロのキャラクターを実にすんなりと演じます。遅咲き女優の当たり役というところでしょうかね。

 同様に、三十路をすぎて高校生やっちゃう池部良のそのキャリアにおいてかなり珍しい悪役です。

 冒頭の焼殺事件に疑問を持って捜査を続けていくうちに民子の肉体に溺れてしまう、刑事の久垣・小林桂樹もほっぺたプルプルさせてばっかいた「社長シリーズ」とはまったく別の印象でとにかく、東宝でもっぱら善玉だった役者がみな悪党でしかも滅多に殺されないような人が死んじゃう映画です。その反動かもしれないですが、大体最後は殺される系の悪役が多かった中丸忠雄がごく平凡な刑事役だったのも意外と言えば意外。

 殺し屋・黒部進とともに湯殿で焼き殺される民子の炎上を見ながら高笑いする小滝、用済みになった知りすぎた女である大塚道子の全裸絞殺死体、およびイースター島のモアイもビックリな伊藤雄之助の断末魔アップ、など悪趣味とは言えビジュアル的な迫力もたくさんあります。

1996年08月17日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-08-17